かつて「奇跡の鉱物」と呼ばれたアスベストですが、現在では深刻な健康被害をもたらす危険物質とされています。日本では多くの建築物に使われており、吸い込んでから数十年後に肺がんや中皮腫などの病気を引き起こすことがあります。
アスベストの危険は、作業に直接かかわった人に限りません。作業服に付着したアスベストを通じて家族が被害を受けたり、工場の近隣住民にも影響が及んだりする可能性があります。
本記事では、アスベストの基礎知識や健康被害の内容、検査方法、補償制度について詳しく解説します。アスベストと肺がんの関係が気になっている方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
アスベスト(石綿)とは、天然に産出する繊維状の鉱物で、「せきめん」「いしわた」とも呼ばれます。繊維が非常に細いため、研磨機や切断機などの使用中や、吹き付け石綿の除去作業中に飛散しやすい性質があります。
種類には、白石綿、青石綿、茶石綿があり、耐久性・耐熱性・電気絶縁性に優れていることから、建築資材やビニール床タイル、塗料などとして広く用いられてきました。特に日本では、1950年代から1970年代にかけて大量に輸入され、断熱材や防音材などに使われていました。
1975年には吹き付け石綿の使用が原則禁止となり、その後も段階的に規制が強化。2006年には製造・輸入・使用が全面的に禁止されました。
なお、アスベストは存在しているだけでは危険ではなく、飛散して吸い込んだときに健康リスクが生じるとされています。そのため、現在では労働安全衛生法や大気汚染防止法、廃棄物処理法などにより、飛散防止措置が義務付けられています。
アスベストの繊維は極めて細かく、空気中に浮遊しやすい性質があります。吸い込まれると肺の奥深くまで入り込み、長期間体内にとどまるため、様々な健康障害を引き起こします。
大きな特徴は、アスベストばく露(アスベストを体内に取り込むこと)から発症までに数十年の時間がかかることです。たとえば悪性中皮腫は、平均して35年前後の潜伏期間を経て発症することが多いと報告されています。また、どのような状況でアスベストを吸い込んだかを特定するのが難しい点も課題です。
代表的な疾患としては以下の3つがあります。
それぞれ解説します。
原発性肺がんは、肺の内部にある気管支や肺胞の細胞ががん化することで発生します。喫煙や大気汚染など石綿以外の要因でも発症する点が中皮腫と異なる点です。
アスベストが原因となる場合、繊維が物理的に肺細胞を刺激することでがんが発生すると考えられています。発症までの潜伏期間は15〜40年と長く、ばく露量が多いほどリスクが高まります。
咳や痰、血痰などの症状がみられる一方で、無症状のままレントゲンやCT検査で発見される例も少なくありません。
なお詳細については、「アスベスト肺がんとは」の章で説明しています。
アスベスト肺は、肺が固くなってしまう「肺線維症(じん肺)」の一種です。アスベストを長期間にわたり大量に吸い込んだ結果として、肺の組織が徐々に硬くなり、呼吸がしづらくなります。
10年以上アスベスト粉じんにさらされた労働者に多く、発症までの潜伏期間は15〜20年程度です。ばく露が終わったあとも進行するケースがあるため、継続的な経過観察が必要になります。
診断には胸部レントゲン検査が使われ、左右の肺の下部にスジ状の影が見られるのが特徴です。さらに、過去にアスベストを吸い込んだ経験があるかも重要な判断材料となります。
治療は主に対症療法となり、咳や痰を抑える薬や、必要に応じて在宅酸素療法が行われます。なお、ステロイドは効果が期待できません。
悪性中皮腫は、肺を包む胸膜、お腹の臓器を覆う腹膜、心臓のまわりにある心膜など、体内の膜に発生する悪性腫瘍です。その中でも特に多いのが胸膜にできるもので、全体の約90%を占めるとされています。
アスベストを若いときに吸い込んだ人ほど、将来的に中皮腫を発症する可能性が高くなる傾向があります。発症までにかかる期間は20〜50年と長く、10年以内に発病することはほとんどありません。
症状としては、息切れや胸の痛みがよく見られます。初期段階では目立った異常がなく、胸部レントゲン検査で胸に水がたまっているのが偶然見つかることもあります。そのほかに咳、微熱、だるさ、体重の減少などが現れるケースも少なくありません。
診断には、レントゲンやCTなどの画像検査が用いられます。さらに、胸やお腹にたまった水を抜いて細胞を調べる検査や、内視鏡を使って組織を採取する病理検査も行われます。症状の進行や体の状態に応じて、手術・抗がん剤治療・放射線療法などが組み合わされるのが一般的です。
アスベスト肺がんに明確な定義はありませんが、基本的にはアスベストのばく露が原因で発症した肺がんを指します。
石綿による悪性腫瘍の中で最も発症数が多いのが肺がんです。
潜伏期間は30〜40年程度とされ、長期間にわたるばく露歴が確認されるケースが多く見られます。ばく露量が多いほど肺がんになる確率が高まり、累積ばく露量が一定の値を超えると、リスクは2倍に増加すると報告されています。
最大の危険因子は喫煙ですが、アスベストと喫煙の両方にさらされると、リスクはさらに高まります。たとえば喫煙しない人を1とした場合、喫煙者は10倍、アスベストばく露者は5倍、両方を併せ持つ人では約50倍になるとの調査結果もあるほどです。
アスベストは、がんの種類を問わず、あらゆる組織型の肺がんを引き起こす可能性があります。組織型の違いによる特徴はなく、腺がん・扁平上皮がん・小細胞がんなど、すべてに関連があると考えられています。
参考:独立行政法人 環境再生保全機構|石綿(アスベスト)関連疾患)
アスベスト肺がんの症状は、ほかの原因による肺がんとほとんど違いがありません。自覚症状としては、咳や痰、胸の痛みなどが代表的です。ある研究によると、アスベスト肺がんが見つかったきっかけは、約4割が症状によるもので、残りの6割は検査による偶然の発見でした。
主な症状としては以下が挙げられます。
風邪や気管支炎と似た症状が多いため、見過ごされることもあります。体調の異変が続く場合には、早めに専門医を受診することが大切です。
アスベスト肺がんと診断するためには、「肺がん発症のリスクが2倍になるアスベストばく露があること」を確認する必要があります。アスベストばく露のほかに、喫煙やその他の原因が複合的に重なって原発性肺がんを発症した場合であっても、アスベスト(石綿)にばく露したことが、原発性肺がんと相当の因果関係があると医学的・ばく露歴等から判断できる場合には、「アスベスト(石綿)肺がん」と認定されます。
医学的な要件の中では、特に「胸膜肥厚斑(胸膜プラーク)」というアスベストにばく露した人に起きる、アスベスト特有の良性疾患の有無が、労災認定等を判定する際に重要になります。胸膜肥厚斑(胸膜プラーク)の診断には、胸部CT検査が有用です。
診断の流れは一般的に以下のようになります。
これらの検査を通して、肺がんかどうかを判断し、アスベストとの因果関係を評価します。
アスベストが原因の肺がんでも、治療方法は一般的な肺がんと同じです。がんの進行度や患者の年齢・体力に応じて、最適な治療法が選ばれます。
治療法は、がんの進行度(ステージ)や患者さんの全身状態などを考慮して決定されます。
アスベスト肺がんと認定された場合、治療にかかる費用は「労働者災害補償保険(労災保険)」や「石綿健康被害救済制度」から給付を受けられます。
令和4年6月には救済制度が改正され、特別遺族給付金の請求期限が延長されました。あわせて、支給対象も拡大され、令和8年3月26日までに亡くなった労働者のご遺族も対象になります。
現在の日本では、アスベストの製造・輸入・使用はすでに禁止されています。2006年9月の法改正により、アスベストを0.1%以上含む建材は全面的に使用できなくなりました。
ただし、規制前に建てられた建物には、アスベストを含む建材が残っている可能性があります。こうした建物を解体・改修する際に、アスベストが飛散するリスクがあるため注意が必要です。
2023年10月からは、建物の工事を行う際に、資格を持った調査者による事前調査が義務づけられました。また、一定規模以上の建物では、調査結果を自治体に報告することが求められています。
また、吹き付け石綿や断熱材などが使われている建築物では、工事を始める14日前までに届出を行い、作業基準に従って対応しなければなりません。法律の定めに従い適切に管理することで、将来的な健康被害のリスクを減らせるものの、アスベストを含む建材が残っている間は危険性が潜んでいると言えるでしょう。
アスベストにさらされてから肺がんを発症するまでには、長い時間がかかります。一般的に潜伏期間は15〜40年とされており、過去のばく露が現在の健康状態に影響を与えているかもしれません。
アスベストに関わる仕事をしていた人や、その近くに住んでいた人は、定期的な検診を受けることが望まれます。「手軽に検査をしてみたい」という方は、唾液でがんのリスクを調べる「サリバチェッカー」がおすすめです。
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「不安を和らげたい」「まずは自分で検査してみたい」という方は、ぜひ活用してみてください。