「どんな病気なの?」
「C型肝炎とどう違うの?」
「症状はいつ出る?」
「放っておくと将来がんになるの?」
B型肝炎と聞くと、このような疑問や不安を感じる人もいるでしょう。
医学用語ばかりの情報を前に、戸惑ったり心配になったりするのはごく自然なことです。
この記事では、B型肝炎の原因・症状・C型肝炎との違い、さらに肝細胞がんとの関係までを、専門用語をできるだけ噛み砕いて解説します。正しい知識を身につけ、不安を拭い去りましょう。
目次
B型肝炎(B型肝炎ウイルス感染症)とは、B型肝炎ウイルス(HBV)への感染によって肝臓に炎症が起こる病気です。
HBVは主に感染者の血液や体液(精液、膣分泌液など)を介して感染し、肝臓に急性の炎症(急性肝炎)を引き起こすことがあります。一部の感染者ではウイルスが体内に残り続けて慢性肝炎へ移行する場合もあり、症状がなくなった後もウイルスが潜伏し続けることがあります。
HBVの感染経路は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)と同様に血液や体液を介するものですが、HIVに比べて50~100倍も感染力が強いことが知られています。
また、HBVは体外でも少なくとも約7日間は生存できるウイルスのため、その間に予防接種を受けていない人の体内にウイルスが入ると、感染が成立する可能性があります。
主な感染経路は以下の通りです。
母子感染(垂直感染) | 出産時に母親から赤ちゃんへウイルスが移る経路 |
血液感染(水平感染) | 安全でない輸血や血液製剤の投与注射針の使い回し、カミソリや歯ブラシなどの共用コンドームを使用しない安全でない性行為消毒が不十分な器具をしようした入れ墨(タトゥー)やピアスの施術医療現場での針刺し事故 |
特に先進国(日本や北米、西ヨーロッパなど)では、思春期以降における性感染や注射薬物の使用による感染が主要な経路です。B型肝炎ウイルスの潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)は平均約90日間だが、約60日~150日の幅があります。
個人差はありますが、この潜伏期間の後に症状が現れたり検査でウイルスが検出されたりします。
参考:厚生労働省検疫所FORTH|B型肝炎について(ファクトシート)
日本国内では推計110万~140万人の方がB型肝炎ウイルスに持続感染しているとされています。そのうち最大40万人以上は、昭和23~63年頃まで行われていた集団予防接種での注射器の連続使用(使い回し)によって感染した人々だと考えられています。
これは当時、予防接種の際に針や注射器を交換せず続けて使用したため、感染者の血液が付着した針を通じて次々とHBVが広がってしまったことが原因です。こうした過去の集団予防接種が原因のB型肝炎ウイルス持続感染者に対しては、現在、国から給付金が支給される救済制度が設けられています。
感染後に急性で終わるか慢性化(ウイルスの持続感染)するかは、感染した年齢によって大きく異なるのが特徴です。生後まもない赤ちゃんがHBVに感染した場合、約80%が慢性の持続感染へ移行すると報告されています。また、幼少期に感染したケースでも30~50%が慢性化することがわかっています。
一方で、健康な成人がHBVに感染した場合はその大部分は一過性の感染で終わり、自然に回復して6か月以内に体内からウイルスが排除され、慢性化するのは5%未満とされています。
慢性化したB型肝炎ウイルス感染者の中には、長年の肝臓の炎症により肝硬変や肝がんへ進行してしまう人もいます。特に小児期に感染して持続感染者となった人では、その約25%が将来的にB型肝炎に関連する肝硬変や肝がんで命を落とすリスクがあるとされているのです。
現在では抗ウイルス薬による治療や定期的な経過観察により、慢性肝炎から肝硬変・肝がんへの進行をできるだけ抑えることが期待できます。早期発見・早期治療に努めることで、B型肝炎ウイルスと共存しながら健康を維持できる可能性も広がっています。
B型肝炎とC型肝炎はいずれも肝臓に炎症を引き起こすウイルス感染症ですが、原因となるウイルスの種類や感染後の経過、予防法、治療法に明確な違いがあります。
以下の表で、B型肝炎とC型肝炎の主な違いを項目別に比較してみましょう。
B型肝炎 | C型肝炎 | |
原因ウイルス | ヘパドナウイルス科に属するDNAウイルス | フラビウイルス科に属するRNAウイルス |
経過 | 急性感染では一過性の肝炎で終わることが多いが、一部慢性化する | 急性感染では症状が出にくいことが多く、感染に気づかないこともあるが、感染者の約70%が慢性肝炎へ移行しやすい |
予防 | ワクチンで予防できる | 有効なワクチンはまだない |
治療 | ・急性肝炎は、通常安静による自然治癒を目指す・慢性肝炎は、抗ウイルス療法などでウイルスの増殖を抑え、肝機能の悪化を防ぐ | ・慢性肝炎は、直接作用型抗ウイルス薬を用いた治療が主流で、高い確率でウイルスを排除(治癒)できる |
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるほど症状が出にくい臓器のため、感染しても病気が進行するまで症状に気がつかないこともあります。
急性の場合では、風邪のひき始めのような倦怠感や疲労感、食欲低下といった初期症状が1週間ほど続く場合があり、吐き気や嘔吐、腹痛などが加わって現れることもあります。
実際の診断は、皮膚や白目が黄色くなる黄疸の出現や、健康診断などの血液検査で肝機能の異常が指摘されたことをきっかけに判明するケースが多いです。
B型肝炎と肝臓がんの間には密接な関連性があります。肝細胞がんが発生する主な要因の一つはB型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染です。B型肝炎ウイルスが体内に長期間とどまることで、肝細胞の炎症と再生が繰り返され、それに伴い遺伝子の変異が積み重なり、がんへと進展すると考えられています。
日本においては、肝細胞癌の約20%がB型肝炎に起因しており、C型肝炎による発癌が減少傾向にある中、B型肝炎による肝細胞癌は減少傾向が見られず、その対策が重要とされています。
B型肝炎ウイルスが肝臓がんを引き起こすメカニズムには、主に二つの経路があります。一つは慢性炎症を背景とした肝細胞障害・再生による遺伝子異常の蓄積です。慢性炎症はHBVの量によって大きく影響を受け、HBV DNA量が多いと肝発癌リスクが高まることが報告されています。
もう一つは、B型肝炎ウイルスによる直接的な発癌効果です。HBVが産生するHBx蛋白が、様々な転写因子を活性化しサイトカイン産生を促すこと、宿主細胞の増殖やアポトーシスに影響を与えることで発癌に寄与していると報告されています。また、宿主ゲノムにHBVゲノムが組み込まれることも遺伝子異常をもたらし、発癌に関わると考えられています。
原発性肝細胞がんの約90%はウイルス感染症が原因であり、B型肝炎やC型肝炎ウイルスが持続感染して肝細胞に炎症をきたし、壊死と再生を繰り返しながら慢性肝炎を経て肝硬変に移行し、その過程で遺伝子異常が生じ、肝細胞癌が発生します。
疫学的研究によると、日本国内では原発性肝がんの70%以上がHBVおよびHCV感染に起因することが示唆されています。分子生物学的研究においても、肝癌組織と非癌部組織を比較した場合、HBV感染頻度は非癌部組織よりも肝癌組織の方が高く、統計的に有意な差があることが確認されています。
こうした研究結果から、B型肝炎ウイルスの感染予防と早期対応が肝臓がん予防の重要な鍵だとわかるのです。
B型肝炎ウイルスの感染を予防するには、B型肝炎ワクチン(HBワクチン)の接種がとくに有効な方法の一つです。このワクチンは乳児期から成人まで幅広い世代で接種することで、B型肝炎や将来的な肝がんの発症リスクを抑える効果があるとされています。
日本でも2016年より乳児への定期予防接種として導入され、生後まもない赤ちゃんが接種を受けています。また、B型肝炎ワクチンは世界180以上の国と地域で使用されており、安全性も非常に高いワクチンとされているものです。
通常、B型肝炎ワクチンは4~6か月の間に合計3回接種します(初回接種→1か月後→6か月後)。特に乳幼児期にこのスケジュールで接種を行うと、ほぼ全員がB型肝炎に対する免疫(HBs抗体)を獲得できます。さらに、獲得した免疫は少なくとも約15年間持続することが確認されています。
しかし、ワクチンによる免疫獲得の効果は接種する年齢とともに低下しまうため注意が必要です。例えば40歳までに接種した場合、抗体獲得率は約95%に達すると報告されていますが、40歳を過ぎてから接種した場合では、免疫を獲得できる人の割合がおよそ80%にまで下がるとされています。
ワクチン接種をご検討中の方は、かかりつけ医にご相談ください。
B型肝炎ウイルスの感染がある方、またはその疑いがある方にとって、「将来、肝細胞がんになるのではないか」という不安を抱くことは自然なことです。肝細胞がんは、B型やC型肝炎ウイルスの持続感染により、長い年月をかけて発症することが多いため、日常的な体調だけでは判断がつきにくい特徴をもっています。
だからこそ、病気の“サイン”を早期にキャッチするための定期的なリスク検査がとても重要です。現在では、血液検査や画像検査に加えて、自宅で手軽に行える検査方法も登場しています。
こうした中で注目されているのが、自宅で唾液を採取してがんリスクを評価できる検査キット「サリバチェッカー」です。この検査は、慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究成果に基づいて開発されたもので、唾液中の微量な代謝物を高感度の分析装置で検出し、AIを使って複数のがんのリスクを総合的に評価します。
わずか数分で唾液を採取するだけで、病院に行かずともがんリスクをスクリーニングできるのが特徴です。特に、次のような方におすすめされています。
もちろん、この検査で「がんが確定する」わけではありませんが、将来的な不安を和らげ、必要に応じた精密検査を受けるきっかけになります。そして、腫瘍マーカー検査や画像検査と併用することで、より確実な健康管理につながります。
がんや慢性疾患は「気づいたときには進行していた」ということが少なくありません。だからこそ、“まだ症状がない今”から定期的に体の状態をチェックする習慣をもつことが大切です。「自分はまだ大丈夫」と思わず、未来の健康のために、できるところから一歩ずつ取り組んでいきましょう。