乳がんは日本人女性の9人に1人がかかる、とても身近ながんです。毎年約10万人の女性が乳がんになっており、女性のがんの中で最も多い病気となっています。しかし、早期発見できればステージⅠの5年生存率は92%以上と、非常に治りやすいがんでもあります。大切なのは、初期症状を見逃さず、適切な検査を受けることです。
この記事では、乳がんの基本的な知識から初期症状、治療方法、そして自分でできるセルフチェックの方法まで、詳しく説明します。乳がんを正しく知り、あなた自身やあなたの大切な人の健康を守りましょう。
乳がんとは、お母さんが赤ちゃんにあげる母乳を作る「乳腺」という部分にできる悪性腫瘍(あくせいしゅよう)です。悪性腫瘍とは、体に害を与える悪いできものという意味で、一般的に「がん」と呼ばれています。
最新のデータによると、女性の癌罹患数は432,982人、うち乳癌は98,782人で、これは全部位の22.8%を占め、女性の癌の中では最も頻度が高い数字となっています。一方で、死亡数をみると年間約1万6千人となっており、大腸がん、肺がん、膵臓がんに次いで4番目です。
乳がんは恐ろしい病気のように思えますが、実は早期発見できれば治る可能性の高い病気です。早期に発見できれば治るがん(I期であれば5年相対生存率は92%以上)であるため、正しい知識を持って早期発見に努めることがとても大切です。
出典:日本医師会|乳がん検診
乳がんは、がん細胞の特徴によって主に4つのタイプに分けられます。この分類は「サブタイプ」と呼ばれ、治療方法を決める際にとても重要になります。
がん細胞の中に、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)を受け取る部分があるタイプです。女性ホルモンががんの成長を助けてしまうため、ホルモンの働きを止める薬で治療します。全体の約70%を占める最も多いタイプで、比較的治療がしやすいとされています。
がん細胞の表面に「HER2」というタンパク質がたくさん作られているタイプです。このタイプは成長が早いのですが、HER2を狙い撃ちする特別な薬があるため、治療の効果が期待できます。
ホルモン受容体もHER2も持たない乳がんで、比較的若い女性に多く見られます。ホルモン療法や分子標的療法が効かないため、抗がん剤による治療が中心になりますが、最近は免疫療法も使われるようになってきました。
親から子に受け継がれる遺伝子の異常が原因で起こる乳がんです。遺伝性乳がんの中で最も多いのは、BRCA1やBRCA2という遺伝子に異常があるタイプで、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれています。血縁者に乳がんや卵巣がんの人が複数いる場合は、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。
胸にしこりがあっても、すべてが乳がんというわけではありません。しこりには「良性」と「悪性」があり、それぞれ全く違う特徴を持っています。
良性腫瘍は、周りの組織を押しのけるように大きくなりますが、他の部分に広がったり、別の臓器に転移したりすることはありません。一方、悪性腫瘍(がん)は、周りの組織に染み込むように広がり、血管やリンパ管を通って体の他の場所に転移する可能性があります。
特徴 | 良性のしこり | 悪性のしこり(がん) |
硬さ | 比較的弾力がある、ゴムのような感触 | 硬い、石や梅干しの種のように硬い |
可動性 | 指で押すとコロコロと動く | 周囲の組織と癒着しているため、動きにくい |
形 | 比較的滑らかで、境界がはっきりしている | 不整形、デコボコしている、境界が不明瞭 |
痛み | 痛みを感じる場合が多い | 初期には痛みを伴わないことが多い |
成長 | 比較的ゆっくりと大きくなる | 急速に大きくなることがある |
ただし、これらの特徴だけで良性・悪性を判断するのは危険です。しこりを見つけたら、必ず専門の医師に診てもらいましょう。
乳がんは初期の段階では症状がほとんどありません。しかし、注意深く観察することで気づくことができる症状もあります。以下のような症状がある場合は、恥ずかしがらずに早めに病院を受診しましょう。
それぞれ説明します。
胸のしこりは乳がんの最も代表的な症状です。乳がんを発見するきっかけとなる症状の多くが「しこり」だからです。乳がんはその60%以上がセルフチェックによって発見されており、セルフチェックで見つかることが多い「しこり」は早期の乳がんでも生じることが多くなっていることが分かっています。
乳がんのしこりには以下のような特徴があります。
自分で触れて見つけられる乳がんのしこりの大きさは2cm以上ですが、乳房に触れるのを習慣化すると1cmの大きさにも気付けるようになります。小さなしこりに気づけるよう、定期的なセルフチェックを心がけましょう。
乳房の見た目の変化は、乳がんの重要なサインです。がんが成長すると皮膚が引っ張られたり、炎症が起きたりして、見た目に変化が現れるからです。
以下のような変化に注意が必要です。
これらの変化は鏡の前で確認できます。月に1回は鏡の前で自分の胸の状態をチェックする習慣をつけましょう。
乳首からの異常な分泌物は、乳がんのサインの可能性があります。妊娠・授乳期以外で乳首から分泌物が出ることは通常ありません。がん細胞が正常な細胞を壊すことで、血液が混じった分泌物が出ることがあります。
特に注意が必要な分泌物は、以下のとおりです。
このような分泌物が出た場合は、すぐに病院を受診しましょう。セルフチェックでは、乳首を軽くつまんで分泌物が出ないかを確認します。
乳首や乳輪部の皮膚の異常も、乳がんのサインの場合があります。「乳房パジェット病」という特殊な乳がんは、しこりを作らずに皮膚の症状として現れるからです。
以下のような症状に注意が必要です。
塗り薬で治療してもよくならない場合や、症状が悪化する場合は、乳腺外科を受診しましょう。皮膚科ではなく、乳腺の専門医に診てもらうことが大切です。
乳がんは乳房の「外側上部」に最も多く発生します。乳房を乳首を中心に4つの部分に分けると以下のようになります。
セルフチェックでは乳房全体をチェックしますが、特に脇の下に近い上外側の部分は念入りに調べましょう。ただし、どの部分にも乳がんはできる可能性があるので、全体的なチェックが重要です。
乳がんが進行すると、血管やリンパ管を通って体の他の部分に転移することがあります。初期のうちは症状がほとんどありませんが、以下のような症状が現れる場合があります。
脇の下や首のリンパ節の腫れは、乳がん転移の重要なサインです。リンパ節は乳がんが最初に転移しやすい場所だからです。
以下のような症状に注意しましょう。
風邪でもリンパ節は腫れますが、乳房に異常がある場合や乳がんの治療歴がある場合は、早めに医師に相談しましょう。
乳がんが皮膚に転移すると、胸の皮膚や手術の傷跡に硬いしこりや赤み、潰瘍ができることがあります。見た目で分かりやすい症状なので、定期的に全身の皮膚をチェックすることが大切です。
乳がんが大腸に転移することは非常にまれです。大腸の症状がある場合は、乳がんの転移ではなく、大腸がんや他の大腸の病気である可能性の方が高いため、適切な検査を受ける必要があります。
乳がんの治療は、がんの進み具合(ステージ)、がんの性質、患者さんの年齢や体の状態などを考えて、医師と患者さんが一緒に決めます。治療は大きく「局所療法」(がんのある場所だけを治療)と「全身療法」(体全体を治療)に分けられます。
手術療法は、大きく分けて4つの方法があります。
がんとその周りの組織だけを取り除き、乳房の大部分を残す手術です。比較的早い段階の乳がんで、がんの大きさが乳房の大きさに比べて小さい場合に行われます。手術の後は通常、放射線治療も行います。
乳房全体を取り除く手術です。がんが大きい場合や複数の場所にある場合に行われます。最近は、患者さんの希望により乳房を作り直す手術(乳房再建術)を同時に行うことも多くなっています。
乳房を失った患者さんに対して、乳房の形を作り直す治療です。人工のもの(シリコンインプラント)を使う方法と、患者さん自身の体の組織を使う方法があります。
放射線治療は、強いX線をがん細胞に当てて、がん細胞を死滅させる治療法です。
乳房の一部だけを切除する手術を受けた場合、残った乳房にがんが再び発生するのを防ぐため、ほぼ全ての患者さんに放射線治療が行われます。手術の傷が治り、検査結果が出た後に開始します。
治療は平日毎日、約5週間通院して行います。1回の照射時間は2-3分程度と短く、痛みはありません。最近では治療期間を短くできる方法(約3週間)も選べるようになりました。がんがあった場所には、追加で4-5回照射することもあります。
乳がんが脳や骨、その他の場所に転移した場合や、手術した場所に再発した場合の治療です。
主な副作用は照射した部分の軽い皮膚炎(日焼けのような状態)で、治療が終われば治ります。体のだるさや吐き気が起こることもありますが、多くは治療後2週間程度で改善します。脳全体に照射した場合は一時的に髪の毛が抜けますが、数ヶ月後には再び生えてきます。
薬物療法は体全体に作用する治療で、乳がんのサブタイプに応じて以下のような治療があります。
がん細胞の増殖を抑える薬を使う治療です。手術の前後や、転移・再発した乳がんに対して使用されます。
ホルモン受容体陽性乳がんに対して、女性ホルモンの働きを邪魔する薬を使う治療です。副作用が比較的軽く、長期間続ける治療です。
がん細胞の特定の部分を狙い撃ちする治療で、HER2陽性乳がんに対するトラスツズマブなどがあります。効果が高く、副作用も従来の抗がん剤より軽いのが特徴です。
患者さん自身の免疫の力を高めてがんを攻撃する治療で、最近ではトリプルネガティブ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害剤が使われるようになってきました。
乳がんはからだの表面に近い部分にできるため、自分で見つけられる可能性のある数少ないがんです。また、万が一乳がんがあった場合でも、普段から乳房の状態を確認しておけば、がんが進行する前に治療を開始することがでる可能性があります。
セルフチェックは、閉経前の方は乳房がやわらかくなる月経終了後1週間~10日の間に、閉経後の方は一定の日にちを決めて、毎月1回行いましょう。
セルフチェックは、見る、触る、しぼるの3ステップでおこないます。特に、入浴時に行うのがわかりやすいため、おすすめです。
上半身裸になって鏡の前に立ち、両腕を下ろした状態、両腕を上げた状態、腰に手を当てて胸を張った状態で観察します。具体的には、以下の点をチェックするようにしましょう
仰向けに寝て、調べる側の腕を頭の下に置きます。反対側の手の指の腹(3-4本の指)で乳房全体を触ります。
乳房はつままず、4本の指をそろえて滑らせるように触れましょう。
具体的には、「の」の字を書くように、または乳首から放射状になでるように触り、脇の下のリンパ節も忘れずにチェックするのが大切です。また、乳頭(乳首)をつまんで軽くしぼってください。その際に血のような分泌物が出ないかチェックしましょう。
入浴時に石けんをつけた手で行うのが、異常がわかりやすくおすすめです。石けんで滑りが良くなり、しこりが分かりやすくなります。
セルフチェックでは、普段と違う異常を見つけることが重要です。月に1回乳房に触れることで、普段の乳房の触り心地を覚えておきましょう。異常を見つけても慌てず、早めに専門医を受診することが大切です。
乳がんは女性の9人に1人がかかる身近な病気ですが、早期発見できれば予後が良いがんでもあります。「自分は乳がんかもしれない…」と不安な方もいらっしゃるかもしれませんが、正しい知識と適切な行動で乳がんから身を守ることができます。
乳がんの早期発見には月に1回のセルフチェックと定期的な検診が基本ですが、マンモグラフィ検査では約20%の乳がんが見落とされる可能性があります。「検診を受けたいけれど忙しい」「マンモグラフィの痛みが苦手」そんな悩みを持つ方も多いでしょう。
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