乳がん検診では、乳房をX線で撮影する「マンモグラフィ」が広く利用されています。マンモグラフィは乳がんの早期発見に有効な検査ですが、乳房内部の組織の構成によっては、内部が見えにくくなることがあります。その代表的な例が「デンスブレスト」(高濃度乳房)と呼ばれる状態です。デンスブレストでは乳腺組織が多く、マンモグラフィで全体が白く写りやすいため、乳がんが見つけにくくなる可能性があります。
デンスブレストは病気ではなく、乳房の「状態」を表す言葉です。しかし、乳がんの見落としリスクが高まる可能性があることも報告されています。したがって、乳がんの早期発見の対策を考えるうえで自分の乳房の状態を知っておくことは重要です。
この記事では、デンスブレストの基本的な知識、原因や問題点、マンモグラフィでの写り方、マンモグラフィ以外の検査方法などについて、わかりやすく解説します。
目次

乳房は主に「乳腺組織」と「脂肪組織」から構成されており、その割合は人によって異なります。乳腺組織が多い状態を「デンスブレスト(高濃度乳房)」と呼びます。乳腺はX線を通しにくいため、乳腺が多いとマンモグラフィで白く写るという特徴があります。
デンスブレスト自体は病気ではなく、乳房の状態を表す分類のひとつです。40歳以上の日本人では、約4割が該当すると推測されており、特にアジア人は乳腺が多い傾向があるとされています。
乳房の構成は、年齢やホルモンバランス、出産・授乳歴などにより変化するため、同じ人でも時期によって乳腺の割合が変わることがあります。
マンモグラフィ(乳房X線検査)は、乳房を専用のプラスチック板で挟んで薄くし、X線で撮影する方法です。触ってもしこりがわからないような早期の乳がんを、「石灰化(白い粒状の影)」として写し出せるのが特徴です。
画像上での見え方は、組織によって以下のように異なります。
マンモグラフィでは、白く写る乳腺が多い状態を「濃度が高い」、黒く写る脂肪が多い状態を「濃度が低い」と表現します。
デンスブレスト自体は病気ではありませんが、以下のような問題につながるため、注意が必要です。
乳腺と同じように、乳がんなどの病変もマンモグラフィでは白く写ります。デンスブレストでは乳腺が豊富のため、全体が白く写りやすく、その白い背景の中に白い病変が重なってしまい、見つけにくくなる可能性があります。そのため、デンスブレストでは、マンモグラフィ単独では乳がんが見落とされるリスクが高くなる可能性が指摘されています。
海外の研究では、デンスブレストでは、乳腺組織が少ない人に比べて、乳がんの発症リスクがわずかに高いことが報告されています。ただし、日本人を対象とした研究データはまだ十分ではなく、詳しいことは明らかになっていません。いずれにしても、デンスブレストであるかどうかに関わらず、自分の乳房の状態を把握したうえで適切な検査を受けることが大切です。

マンモグラフィで見る乳房のタイプは、乳腺と脂肪の割合によって4つに分類されます。
【乳房の4つの分類】
このうち、後ろの2つ(不均一高濃度・極めて高濃度)が「デンスブレスト」と呼ばれます。 特に「極めて高濃度」の乳房は、真っ白に写る部分が多いため、乳がんが見つけにくく、見落としにつながりやすいと指摘されています。
日本人はデンスブレストの割合が高く、全体の60%以上が該当するといわれています。一般的に年齢とともに乳腺は減っていきますが、40歳以上でも4割以上がデンスブレストに該当するという報告もあります。
| 密度 | 特徴 | 該当する状態 |
| 脂肪性 | ほとんどが脂肪で構成されている | 非高濃度乳房 |
| 乳腺散在 | 脂肪が多く、乳腺は散在している | 非高濃度乳房 |
| 不均一高濃度 | 乳腺が不均一に多く、がんが隠れる可能性がある | 高濃度乳房(デンスブレスト) |
| 極めて高濃度 | ほとんどが乳腺で、がんの発見が非常に難しい | 高濃度乳房(デンスブレスト) |

乳房を構成する「乳腺」と「脂肪」の割合には個人差があります。 年齢やホルモンバランス、授乳歴などによっても変化するため、誰しもデンスブレストになる可能性があります。
一般的に、乳腺組織は年齢とともに減少していくため、高齢になるほどデンスブレストの割合は低くなる傾向です。 実際、40~50歳代では多くみられますが、60歳以降になると割合が下がるという報告もあります。また、授乳経験のない人や、女性ホルモン補充療法を受けている人は、比較的デンスブレストになりやすいといわれています。
デンスブレストの判定はマンモグラフィ画像で行うため、写り方によって評価が変わることもあります。 毎年検診を受けていても、ある年は「乳腺散在乳房」、翌年は「不均一高濃度乳房」と評価が変わることは珍しくありません。
また、ダイエットなどで脂肪が減ったときも、相対的に乳腺の割合が多く見えるため、デンスブレストと判定されることがあります。乳房の大きさと乳腺の量は直接関係ありません。
「胸が小さいから大丈夫」「大きいからなりやすい」ということはなく、誰でもデンスブレストと判断される可能性があるのです。

デンスブレストであっても、マンモグラフィでがんを全く発見できないわけではありません。マンモグラフィによる乳がん検診は、早期発見により乳がん死亡率を下げる効果が証明されている唯一の検診方法であり、デンスブレストの方でも継続して受けることが推奨されています。
デンスブレストは病気ではないため、追加の検査を受けるなど特別な対応をとる必要はありませんが、見逃しが不安な方は他の検査を組み合わせることも選択肢になります。
乳房超音波(エコー)検査は、専用のプローブを乳房やわきに当て、超音波の反射を画像として映し出す方法です。エコーでは乳腺とがんの映り方が異なるため、デンスブレストでも病変を見つけやすいとされています。マンモグラフィとエコーを併用することで、乳がんの検出率が高まることが期待されています。
トモシンセシスは、従来の2Dマンモグラフィを進化させた技術で、乳房を立体的な3D画像として撮影できる方法です。従来のマンモグラフィは2D画像のため、乳腺が重なって写り、内部が見えづらくなるという欠点がありました。しかし、トモシンセシスでは複数の角度からX線を照射して断層画像をつくり、乳腺の重なりを少なくでき、より細かい部分まで確認できるようになります。そのため、デンスブレストの人でもがんが乳腺に隠れにくくなるという大きなメリットがあります。
MRI検査は強力な磁石と電波を利用して体の内部を撮影する検査で、X線を使用しないため被ばくの心配がありません。また、乳房を圧迫しないので、マンモグラフィが「痛い」という悩みを持つ人も受けやすい検査です。乳腺密度の影響を受けずに撮影できるため、デンスブレストで見つけにくいがんを確認できる可能性があります。
「マンモグラフィが痛い」「毎回エコーを受けるのは負担」「デンスブレストで見逃しが心配」など、こうした悩みを持つ方には、近年では「唾液でわかる乳がんリスク検査」といった新しい選択肢が登場しています。
リスク検査はがんの有無を調べるものではなく、あくまでがんのリスクを調べる検査ですが、自分のリスクを把握することで、検診の受け方を見直したり、頻度を高めたりする判断材料にもなります。
デンスブレストは乳腺が多い状態を表す言葉で、病気ではありません。しかし、マンモグラフィで乳がんが隠れやすい・見つかりにくい可能性があることや、乳腺が少ない乳房と比べて乳がんリスクがわずかに高いことなどが報告されています。
乳がんの見落としのリスクを減らすには、マンモグラフィを継続して受けつつ、必要に応じてエコー検査、トモシンセシス(3Dマンモグラフィ)、MRIなどを組み合わせる方法があります。重要なのは、デンスブレストかどうかに関わらず、普段から自分の乳房の状態に関心を持ち、変化に気づけるようにしておくことです。こうしたセルフチェックと並行してリスク検査を取り入れることで、検査の頻度や追加の必要性を判断しやすくなり、安心につながります。
サリバチェッカーは、慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究成果をもとに開発された検査キットで、唾液を採取するだけで自宅で手軽にがんリスクを調べられます。一度の検査で肺がん、膵がん、胃がん、大腸がん、乳がん、口腔がんのリスクをAIが総合的に解析します。自分の体の状態を把握する手段として、こうしたリスク検査を日常に取り入れることもひとつの方法です。