自身の親族にがんになった方が複数いる場合、「がん家系」と呼ばれる家系かもしれません。
家族にがん患者が複数いて、自身もいつか同じがんになると不安になってしまう方は多いです。2023年の死因第1位はがんで、全死因の24.3%を占めています。(参考:令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況|厚生労働省)
家系的な要素があっても、正しい知識があれば予防や早期発見につながるでしょう。本記事ではがんと遺伝の関係、遺伝する・しないがん、検査方法について説明します。自身もがんになってしまうのではないかと不安になっている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
「がん家系」とは、家族や親族にがん患者が多い家系のことです。
この言葉は医学的に厳密に定義されているわけではありませんが、がんの原因の一つに遺伝要因があることから使われています。自身の家系が「がん家系」である場合、複数の世代で発がんするかもしれません。
自身ががん家系でも悲観する必要はありません。がんになりやすい遺伝子を受け継ぐとは限らず、受け継いだとしても発がんしないケースもあるためです。
がんになりやすい遺伝子を受け継いでも、必ず発がんするわけではなく、遺伝的要因以外にもがんの種類や生活習慣などの環境要因が発がんに大きく影響します。
がんは遺伝要因と環境要因が組み合わさって発症する病気です。がんの多くは環境要因が関係しており、主な環境要因は、以下のとおりです。
放射線や紫外線はDNAを傷つけ、発がんしやすくします。
アスベストは石綿とも呼ばれ、天然の鉱石に含まれる繊維状の鉱物のことで、目に見えないほど細かいです。鉱山や工場で働く人は、アスベストを吸ってしまうかもしれません。アスベストが付着した作業着から家族も吸入してしまうケースもあります。
感染症が原因となるがんは胃がんや子宮頸がんなどがあります。ピロリ菌やHPV(ヒトパピローマウイルス)などへの感染が原因です。家族であれば食生活が似てくるため、生活習慣が大きく影響するでしょう。
がんはすべて遺伝するわけではなく、遺伝性のものと、そうでないものがあります。がんに関連する遺伝子は以下のとおりです。
がん遺伝子を過剰活性化させる遺伝子異常があると、発がんにつながります。
がん抑制遺伝子はDNA損傷や複製ミスなどを修正する役割があります。がん抑制遺伝子が不活化する遺伝子異常があると発がん率が高まるでしょう。遺伝性腫瘍の原因遺伝子の多くはがん抑制遺伝子です。
私たちの体の細胞には対になった染色体があり、それぞれがん抑制遺伝子が含まれています。生まれつき、がん抑制遺伝子に問題がないケースでは2本とも問題がありません。1本に異常が起こっても残ったもう片方のがん抑制遺伝子が発がんを抑えられます。正常な遺伝子にも異常が起こると、がん抑制遺伝子が機能せず発がんにつながります。
遺伝性腫瘍は、生まれつき片方のがん抑制遺伝子に異常があるというのが特徴です。正常ながん抑制遺伝子が元々1本しか存在しないので、1回の変化でがん抑制機能が失われてしまいます。そのため、生まれつきがん関連遺伝子に変化があるケースでは、発がん率が上がるでしょう。
遺伝性腫瘍の発症率を高める疾患は、以下のとおりです。
疾患名 | 発症リスクの高いがん |
遺伝性乳がん卵巣がん症候群 | 乳がん・卵巣がん・前立腺がん・膵がん |
症候群 | 大腸がん、子宮体がん |
家族性大腸腺腫症(家族性大腸ポリポーシス) | 大腸がん、十二指腸乳頭部腫瘍、骨軟部腫瘍、甲状腺がん |
多発性内分泌腫瘍症1型 | 下垂体腫瘍、膵神経内分泌腫瘍 |
多発性内分泌腫瘍症2型 | 甲状腺髄様がん、褐色細胞腫 |
症候群 | 軟部肉腫、骨肉腫、乳がん、副腎皮質がん、白血病、脳腫瘍 |
遺伝性のがんは、特定の遺伝子の変異が親から子へと受け継がれることで発がんリスクが高まるがんです。特に代表的ながんは以下のものが挙げられます。
遺伝性のがんについて正しい知識を持つことで、適切な予防や早期発見につながるでしょう。それぞれ説明します。
乳がん・卵巣がんの症状と原因、対策は以下のとおりです。
疾患 | 症状 | 原因 | 対策 |
乳がん | 乳房のしこり(乳房の外側上部にできやすい)乳頭から分泌物が出る乳房にくぼみができる脇のリンパ節が腫れる乳頭や乳輪がただれる | 生活習慣エストロゲンの長期暴露遺伝要因 | 25歳から乳房MRIを含めた健診 |
卵巣がん | 腹部膨満食欲不振便秘頻尿ホルモン過剰分泌(高齢なのに若返る、女性なのに男性化)腹痛・腰痛 | 生活習慣(飲酒・喫煙・肥満)エストロゲンの長期暴露多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)になったことがある卵巣チョコレート嚢胞になったことがある遺伝要因 | 30歳から経腟超音波、血液検査でのCA125測定による健診 |
エストロゲンは女性ホルモンの一種で、長期間高い状態が続くと乳がんや卵巣がんの原因となります。女性の体の発達や生理周期の調整、妊娠の維持、骨密度の維持など、多くの役割があります。
エストロゲンに長期暴露する要因は、以下のとおりです。
卵巣がんはかなり進行するまで無症状であることが多く、40%以上がステージⅢ以上で発見されます。卵巣がんの発症数は他の子宮のがんより少ないですが、死亡数は婦人科のがんで最多です。
遺伝要因として遺伝性乳がん卵巣症候群(HOBC)と呼ばれる疾患があります。遺伝性乳がん卵巣症候群ではBRCA1やBRCA2という遺伝子が変異してがんになるリスクが高まります。男性でもBRCA1、BRCA2の遺伝子変異がある場合、乳がんを発症率が高まるかもしれません。
膵がんは一般的に無症状で、症状が現れるころにはすでに進行しているケースが多いです。膵がんの症状や原因、対策は以下のとおりです。
疾患 | 症状 | 原因 | 対策 |
膵がん | 腹痛黄疸腰背部痛体重減少消化不良 | 遺伝要因糖尿病生活習慣 | がん検診 |
膵がんは浸潤・転移しやすく早期発見も難しいため、親族に膵がん患者がいる場合は特に注意しましょう。
甲状腺は喉に位置している甲状腺ホルモンを合成・分泌する器官です。甲状腺がんは以下の3種類に分類できます。
それぞれのがんの症状と生存率は、以下のとおりです。
がんの種類 | 症状 | 10年生存率 |
分化がん | しこり | 約90% |
未分化がん | 急速にしこりが大きくなる(数週間)痛み・発赤ある声がかすれる呼吸困難嚥下障害 | ほぼ0% |
髄様がん | しこり | 約80% |
分化がんと髄様がんは症状に気づきにくく、気づいたとしてもしこりを見つけられる程度です。未分化がんは、悪性度が高いというのが特徴です。
髄様がんの約1/3は遺伝性で、RET遺伝子の突然変異が原因です。定期的ながん検診が推奨されます。
遺伝しないがんは、以下のとおりです。
遺伝しないがんは予防や定期検査が特に重要になってきます。それぞれ説明します。
生活習慣が乱れると発がんリスクが高まります。がんの原因である主な生活習慣と、発症しやすいがんは以下のとおりです。
生活習慣 | 発症しやすくなるがん |
喫煙 | 肺がん、喉頭がん、口腔がん(舌がん)、胃がん、食道がん、肝がん、大腸がん、乳がん |
飲酒 | 口腔がん(舌がん)・咽頭がん・喉頭がん |
塩分の摂りすぎ | 胃がん |
加工肉の摂りすぎ | 大腸がん |
肥満・運動不足 | 大腸がん、子宮体がん、乳がん、肝がん |
がんは生活習慣の改善によって予防できます。具体的には以下の生活習慣を見直してみるとよいでしょう。
禁煙する場合、受動喫煙にも気をつけましょう。またバランスの取れた食事も大切です。食塩は1日あたり男性7.5 g、女性6.5 g未満に抑えましょう。適度な運動というのは、1日60分以上歩くことを指します。体重管理はBMIを参考にするとよいでしょう。
具体的な発がんにつながる病原体と発症しやすくなるがんは以下のとおりです。
ウイルス | 発症しやすくなるがん |
肝炎ウイルス(HBV、HCV) | 肝がん |
ヒトパピローマウイルス(HPV) | 子宮頸がん |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1) | T細胞白血病/リンパ腫(ATLL) |
エプスタイン・バーウイルス(EBV) | リンパ腫、上咽頭がん |
ピロリ菌 | 胃がん |
肝がんや子宮頸がんはワクチンで予防できます。すでに肝炎ウイルスに感染していた場合は早めの治療が重要です。胃がんはピロリ菌の除菌で予防できます。
皮膚がんは紫外線の過度な照射が原因です。紫外線により皮膚細胞にダメージが蓄積され、遺伝子変異を引き起こします。進行すると転移して命を奪うケースもあります。
予防には日焼け止めの塗布や帽子・サングラスの着用など、紫外線対策が効果的です。
片方の親に遺伝子変異がある場合、がんの遺伝子変異は親から子どもへ50%の確率で受け継がれます。ただし、遺伝子変異が受け継がれても必ず発がんするわけではありません。発がんには遺伝要因だけでなく、環境要因も大きく影響しているからです。
片方の親に遺伝子変異がある場合、世代別に以下のように受け継がれます。
世代 | 遺伝子変異が受け継がれる確率 |
親→子ども | 50% |
子ども→孫 | 25% |
孫→ひ孫 | 12.5% |
がん遺伝カウンセリング(遺伝性腫瘍に関する相談)では第3度近親者までの情報を参考にします。近親者の分類は以下のとおりです。
関連記事:https://sc.salivatech.co.jp/magazine/pancreatic-cancer_genetics/
がん家系だからといって確実にがんになるわけではありません。生活習慣の見直しや定期検診で発がんリスクを抑えられます。
対策できる環境要因は以下のとおりです。
片方の親に遺伝子変異がある場合、子どもへの遺伝率は50%です。遺伝子変異が受け継がれても、発がんには環境要因も影響します。
自身もがんになってしまうか不安な場合は、リスク検査が有効です。リスク検査は市販のキットを使えば、少量の唾液や血液から病気になるリスクを調べられます。
どのキットを選べばよいかわからない場合は弊社の提供する「サリバチェッカー」がオススメです。唾液1滴で検査でき、1度の検査で6種類のがんを調べられます。家族にがん患者が複数いて不安を抱えている場合はぜひ検討してみてください。