「腸内環境が免疫に大事なのは知っているけれど、がんとどう関係するの?」「最近よく聞く『マイクロバイオーム』って何?」そんな疑問を持つ方は多いでしょう。結論から言うと、私たちの体に住む細菌(マイクロバイオーム)は、がん細胞を攻撃する免疫細胞の「教育係」として働いています。
この記事では、最新の癌研究でも注目される「細菌叢(さいきんそう)とがん」の関係を、わかりやすく解説します。さらに、腸内環境の"入り口"である「口内環境(だ液)」の重要性という新常識もお伝えします。
目次

私たちの体には、想像以上に多くの細菌が住んでいます。腸内フローラと呼ばれる腸内細菌の集まりは、がんの発生や進行に深く関わっていることが明らかになっています。
腸内フローラとがんの関係性について、主に以下の3つの視点から解説します。
マイクロバイオームとは、私たちの体に住む細菌の集まり全体を指す言葉です。驚くべきことに、体内の細菌数はヒトの細胞数よりも多く、100兆個以上といわれています。つまり、私たちは「歩く生態系」ともいえる存在なのです。
マイクロバイオームは腸内だけではありません。口腔、皮膚、鼻の中など、体のさまざまな場所に独自の細菌コミュニティが形成されています。場所ごとに環境が違うため、住んでいる細菌の種類も大きく異なります。腸内には特に多様な細菌が住んでおり、善玉菌、日和見菌、悪玉菌といった様々な菌がバランスを保ちながら共生しています。
近年の研究で、マイクロバイオームの状態が肥満、糖尿病、アレルギー、そしてがんなど、多くの病気と深く関わっていることがわかってきました。
腸内細菌は免疫細胞を訓練し、活性化させる重要な役割を担っています。特に善玉菌が作り出す「短鎖脂肪酸」という物質が、がん細胞を攻撃するT細胞などの免疫細胞を活性化させるメカニズムを持っています。
短鎖脂肪酸は、善玉菌が食物繊維を分解する際に作られる物質です。代表的なものに、酢酸、プロピオン酸、酪酸があります。短鎖脂肪酸は腸のエネルギー源になるだけでなく、免疫細胞に直接働きかけて、がん細胞や病原体に対する攻撃力を高めます。善玉菌が豊富な腸内環境では、免疫細胞が適切に訓練され、がん細胞を早期に発見して攻撃する能力が高まるのです。
がん予防において重要なのは、特定の善玉菌を増やすだけではありません。多種多様な菌が共生している状態、つまり「細菌の多様性」が最強の免疫バリアを作ることが、最新の研究で明らかになっています。
腸内フローラの多様性が高い人ほど、がんに対する免疫応答が強くなるという研究結果が報告されています。多様な細菌コミュニティは、さまざまな代謝物を生み出し、免疫系に多角的な刺激を与えます。
一方、細菌の種類が少なく偏った腸内環境では、免疫系が十分に機能せず、がん細胞の増殖を許してしまうリスクが高まります。細菌の多様性を高めるには、さまざまな種類の発酵食品や食物繊維を含む食品を組み合わせて摂取することが効果的です。

近年の研究で衝撃的な事実が明らかになりました。口の中に住む細菌が、大腸がんの発生に関与している可能性があるというのです。
これについて、以下の3つの観点から詳しく見ていきましょう。
私たちの口の中には、数百種類、数千億個もの細菌が住んでいます。1日に分泌されるだ液の量は約1.5リットルにも達し、だ液と共に数千億個の細菌が食道を通って腸へ移動しています。
口内の悪玉菌は、食事や飲み物と一緒に絶えず腸へ送り込まれています。健康な状態であれば、口腔内の細菌バランスは保たれており、腸に到達する細菌の多くは無害です。
しかし、口腔ケアが不十分で歯周病菌などの悪玉菌が増殖している場合、大量の有害な細菌が腸へ流れ込むことになります。1日1.5リットルという膨大な量のだ液と共に移動する細菌の影響は、決して無視できません。
通常、口から入った細菌の多くは胃酸によって死滅します。胃酸のpHは1~2という強酸性で、ほとんどの細菌にとって致命的な環境です。
しかし本来は胃酸で死滅するはずの菌ですが、特定の悪玉菌は胃酸をすり抜けて腸に到達する能力を持っています。代表的なのが「フソバクテリウム」という細菌です。フソバクテリウムは口腔内に常在する細菌ですが、大腸がん組織から高確率で検出されるという最新研究が報告されています。
一方で鹿児島大学の研究チームは、大腸がん患者の唾液と便を比較し、大腸がん患者に特異的に存在する口腔常在菌を4種類発見しました。フソバクテリウムとは異なる菌種であり、口腔から大腸に細菌が供給されていることを証明した世界初の発見です。
参考:鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科「世界初! 口腔細菌が大腸がんの発生に関与している可能性を発見 鹿児島大・杉浦教授ら」
今や、「口内環境の悪化は、腸内環境の崩壊の始まり」という視点は、がん予防において欠かせない新常識となりつつあります。具体的には、口の中にいたはずの細菌が腸にまで届き、腸内フローラを乱して「がんが発生しやすい環境(慢性炎症)」を作ってしまうリスクが指摘されています。
日本人の成人の約8割が罹患しているといわれる歯周病ですが、その影響は決して歯ぐきだけに留まりません。増殖した歯周病菌や毒素が、唾液とともに腸へ流れ込むと、善玉菌を減らして腸内バランスを崩してしまいます。その結果、腸のバリア機能が低下し、有害物質が血液中へ漏れ出すリスクも高まるのです。 事実、鹿児島大学の研究では、お口の細菌ケアが大腸がんの予防につながる可能性が示唆されています。

最新のがん治療で使われる「免疫チェックポイント阻害薬」という薬があります。この薬の効き目が、実は腸内細菌の状態によって大きく変わることがわかってきました。
同じがん治療を受けても、腸内フローラの状態が良い患者ほど治療効果が高いことがわかっています。つまり、腸内細菌が治療薬の効き目を左右しているのです。
免疫チェックポイント阻害薬とは、がん細胞を攻撃する免疫細胞の「ブレーキ」を解除する薬です。私たちの体には、がん細胞を攻撃する免疫細胞が存在しますが、通常はブレーキがかかっていてフル稼働できません。がん細胞はこのブレーキを利用して、免疫細胞からの攻撃を逃れています。免疫チェックポイント阻害薬はブレーキを解除し、免疫細胞ががん細胞をしっかり攻撃できるようにする画期的な薬です。
しかし同じ治療を受けても、患者によって効果に大きな差が出ることが課題でした。近年の研究では、腸内フローラが良好で特定の善玉菌を豊富に持っている患者ほど、薬の効果が高く治療後の経過も良好だとわかりました。善玉菌が作る短鎖脂肪酸が免疫細胞をさらに活性化させ、薬の効果を高めていると考えられています。
腸内フローラを整えるには、その供給源である「口腔フローラ」を無視できません。腸内フローラを整えたいなら、まずは菌の供給源である口の中の環境を整えるのが最短ルートです。
どれほど腸に良い食事を心がけても、口腔内で悪玉菌が増殖していれば、絶えず腸に有害な菌が流れ込み続けます。口腔ケアの基本は、正しいブラッシングとフロスによる日々のセルフケアです。歯ブラシだけでは、歯と歯の間や歯周ポケットの汚れを完全には取り除けません。デンタルフロスや歯間ブラシを併用し、歯周病菌の温床となるプラーク(歯垢)をしっかり除去することが重要です。また定期的な歯科検診を受け、専門的なクリーニングや歯周病治療を受けることも欠かせません。

腸内フローラを整え免疫力を高めるために、今日から実践できる具体的な習慣があります。
以下の3つの習慣を日常生活に取り入れて、がんに負けない体づくりを目指しましょう。
善玉菌を増やすには、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を組み合わせた食事が効果的です。プロバイオティクスとは、生きた善玉菌そのものを含む食品です。ヨーグルト、納豆、キムチ、味噌、ぬか漬けなどの発酵食品がこれに当たり、腸に善玉菌を「入れる」役割を果たします。
一方プレバイオティクスとは、善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖などを含む食品です。野菜、果物、海藻、豆類、全粒穀物などに豊富に含まれており、腸に届いた善玉菌を「育てる」役割を担います。プロバイオティクスだけを摂取しても、エサがなければ善玉菌は定着しにくくすぐに排出されてしまいます。たとえば朝食にヨーグルトとバナナを組み合わせる、味噌汁に海藻やきのこをたっぷり入れるといった工夫が有効です。
口腔ケアは腸内環境を守る最初の砦です。正しいブラッシングとフロスで、腸に流れ込む悪玉菌の総量を減らせます。歯磨きは1日2回以上、特に就寝前は念入りに行いましょう。就寝中は唾液の分泌が減少し、細菌が増殖しやすい環境になるためです。
歯ブラシは毛先が歯と歯茎の境目に当たるように45度の角度で当て、小刻みに動かします。力を入れすぎると歯茎を傷つけるため、優しく丁寧に磨くことがポイントです。デンタルフロスは、歯ブラシでは届かない歯と歯の間の汚れを除去します。1日1回、できれば就寝前に使用するのが理想的です。
また、定期的な歯科検診も欠かせません。3~6ヶ月に一度は歯科医院で検診を受け、専門的なクリーニングや歯石除去を受けることで、歯周病菌の増殖を防ぎ腸への毒素供給を止められます。
健康管理において重要なのは、現状を正確に把握することです。だ液検査は、口腔内の細菌バランスやがんリスクを手軽に調べられる画期的な方法です。採血やバリウム検査のような身体的負担がなく、心理的ハードルも低いため、定期的な健康チェックに最適です。
だ液には口腔内だけでなく全身の健康状態を反映する代謝物質や細菌の痕跡が含まれています。食生活や生活習慣の改善、口腔ケアの徹底といった努力の成果は、だ液の質にも反映されます。定期的にだ液検査を受ければ、自分の取り組みが効果を上げているかを客観的に評価できます。だ液検査の詳細については次の項目で説明します。

だ液は、私たちの健康状態を映し出す「鏡」です。近年の研究により、だ液を調べることでがんリスクや菌のバランスを知れるようになりました。
だ液検査の可能性について、以下の2つの観点から詳しく解説します。
だ液には口内だけでなく全身の健康状態を反映する代謝物や菌の痕跡が含まれています。腸内フローラ検査(検便)よりも手軽で、心理的ハードルが低いのが最大の利点です。
だ液は血液から作られるため、血液中の成分が反映されます。がん細胞が産生する特有の代謝物質や、免疫応答の結果生じる物質など、さまざまな健康マーカーがだ液中に現れます。だ液には、がんに関連する代謝物質(メタボローム)が凝縮されているのです。サリバチェッカーはこの微細な変化をAIで解析し、がんのリスクをA~Dなどのランクで示します。腸内フローラ検査では便を採取する必要がありますが、心理的抵抗を感じる人も少なくありません。
一方、だ液の採取は非常に簡単で、専用の容器に唾を出すだけで完了します。痛みも不快感もなく、自宅で気軽に採取できるため継続的なモニタリングに適しています。
腸内環境を整える努力(食事や生活習慣)の結果は、だ液の質にも反映されます。サリバチェッカーは、だ液で現在のがんリスクをAI(人工知能)が判定する画期的なシステムです。
サリバチェッカーは、だ液に含まれる代謝物質(メタボローム)を詳細に分析し、がんに関連する特定のパターンを検出します。採血やバリウム検査、内視鏡検査のような身体的負担がないため、誰でも気軽に受けられるメリットがあります。現在のがんリスクを評価し、早期発見のきっかけとして活用できる点が特徴です。
腸内に住む細菌は、免疫細胞を教育しがん細胞を攻撃する力を高める重要なパートナーです。善玉菌が作る短鎖脂肪酸が免疫系を活性化させ、細菌の多様性が高いほどがんに対する防御力が強くなります。
特に注目すべきは、口腔環境と腸内環境のつながりです。1日1.5リットルものだ液と共に、口内の細菌が絶えず腸へ流れ込んでいます。歯周病菌などの悪玉菌が腸に到達すると、腸内フローラを乱し慢性炎症を引き起こします。口内環境の悪化は腸内環境崩壊の始まりなのです。
がん治療の現場でも腸内細菌の重要性が明らかになっています。免疫チェックポイント阻害薬の効果は、患者の腸内フローラの状態によって大きく異なります。全身のがん予防には、菌の供給源である口腔のケアが欠かせません。
今日から始められるがん予防の習慣は3つです。「歯磨き・歯科検診(口腔)」で腸への悪玉菌の供給を止める、「バランスの良い食事(腸)」で発酵食品と食物繊維を組み合わせて善玉菌を育てる、定期的な「だ液検査」で免疫のコンディションを確認する。口腔ケアと腸内ケアの両輪で、がんを寄せ付けない体づくりを実現しましょう。