しこりは体のさまざまな部位に発生し、その原因も多岐にわたります。良性のものがほとんどですが、中には悪性腫瘍(がん)の可能性もあるため、正しい知識を身につけて適切な対処を行うことが重要です。
この記事を読むことで、しこりの基本的な知識から部位別のセルフチェック方法、治療の流れまで理解でき、しこりに関する不安や疑問を解消できるでしょう。健康管理に関心のある方や、実際にしこりを発見して不安を感じている方はぜひ参考にしてみてください。
目次
しこりとは、体の中に触れることのできる、正常ではない塊や硬さのことを指します。医学用語では「腫瘤(しゅりゅう)」や「結節(けっせつ)」などと呼ばれることもあります。しこりは皮膚の表面から深い部位まで、体の様々な場所に形成される可能性があります。多くの場合、しこりは良性(非がん性)のものですが、中には悪性腫瘍(がん)の可能性もあるため、発見した際は適切な医療機関での診断を受けることが重要です。
しこりの存在に気づくきっかけは、日常的な身体の手入れや入浴時の洗身、衣類の着脱時などが多く、触れることで初めて発見されるケースがほとんどです。痛みがないものも多いため、定期的なセルフチェックが早期発見の鍵となります。
しこりは非常に多様な特徴を持ち、その性質によって原因や重要度が異なります。
【大きさ】
しこりは米粒くらいの小さなものから、こぶし大以上の大きなものまで様々です。小さなしこりでも重要な疾患の可能性があるため、大きさだけで判断するのは危険です。
【硬さ】
柔らかいものから石のように硬いものまであります。一般的に良性のしこりは柔らかく弾力があり、悪性のしこりは硬くゴツゴツしていることが多いとされていますが、例外も存在します。
【形状】
丸いもの、楕円形のもの、不規則な形のものなどがあります。良性のしこりは比較的規則正しい形をしており、悪性のしこりは不規則でいびつな形をしていることが多い傾向があります。
【表面】
滑らかなものから、でこぼこしているものまであります。表面の状態は触診で確認でき、診断の重要な手がかりとなります。
【可動性】
皮膚の下を動くもの、動かないもの、周りの組織に固定されているものなどがあります。良性のしこりは比較的よく動き、悪性のしこりは周囲の組織に固定されて動きにくいことが多いとされています。
【痛み】
押すと痛むもの、痛みのないものなどがあります。炎症を伴うしこりは痛みがあることが多く、がんによるしこりは初期段階では痛みがないことが多いとされています。
上記の特徴は、あくまで一般的な所見です。しこりの種類によっては当てはまらないものもあるため、気になる場合は早めに医療機関を受診するようにしましょう。
押すと痛いしこりが必ずしも悪性(がん)を意味するわけではありません。むしろ、痛みを伴うしこりの多くは良性であることが多いとされています。
痛みを伴うしこりの代表例として、炎症性の疾患があります。細菌感染により生じるおできやせつ、粉瘤の炎症、リンパ節の腫れなどは、押すと痛みを感じることが一般的です。また、外傷による血腫や、アレルギー反応による腫れも痛みを伴うことがあります。
一方で、悪性腫瘍(がん)によるしこりは、特に初期段階では痛みがないことが多いとされています。痛みがないからといって安心するのではなく、痛みの有無に関わらず、気になるしこりを発見した場合は医療機関での検査を受けることが重要です。
ただし、がんが進行して周囲の組織や神経を圧迫したり、炎症を起こしたりした場合には痛みを伴うこともあります。痛みの有無だけでしこりの良性・悪性を判断することは不可能であり、専門医による総合的な診断が必要です。
しこりは、体の中で細胞や組織が異常に増殖したり、炎症を起こしたり、液体が溜まったりした結果として形成される、触れることのできる塊や硬さのことです。
しこりの発生メカニズムは、その種類によって大きく異なります。良性腫瘍の場合は細胞の正常な増殖制御が一時的に乱れることで発生し、悪性腫瘍の場合は遺伝子の異常により細胞が無制限に増殖することで形成されます。炎症性のしこりは、感染や外傷などの刺激に対する体の防御反応として生じます。
それぞれの発生原因や特徴を確認していきましょう。
良性腫瘍は、がんとは異なり転移したり生命を脅かしたりすることはない、比較的安全な細胞の増殖による腫瘍です。
脂肪腫(しぼうしゅ)は、脂肪細胞が異常に増殖して発生する最も一般的な良性腫瘍です。柔らかく、押すと少し動くのが特徴で、体のどこにでも発生する可能性がありますが、首、肩、背中、腕、太ももによく見られます。成長は緩やかで、痛みを伴うことは稀です。
粉瘤(ふんりゅう / アテローマ)は、皮膚の下に発生する袋状の良性腫瘍で、皮脂や角質などの老廃物が袋の中に溜まることで形成されます。触るとぷよぷよとした感触があり、中央に小さな黒い点(開口部)が見えることもあります。炎症を起こすと赤く腫れ、痛みを伴うことがあります。
線維腺腫(せんいせんしゅ)は、特に乳房に発生する良性のしこりで、若い女性によく見られます。ゴムのような弾力があり、触るとよく動くのが特徴です。女性ホルモンの影響を受けやすく、月経周期に伴って大きさが変化することもあります。
血管腫(けっかんしゅ)は、血管の異常な増殖によって発生する良性腫瘍です。皮膚の表面近くに発生すると赤や紫の斑点のように見え、盛り上がることもあります。生まれつき存在することもあれば、後天的に発生することもあります。
いぼ(尋常性疣贅など)は、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染によって皮膚の細胞が増殖して発生する良性の突起です。手足によく発生し、表面がザラザラしているのが特徴です。
ガングリオンは、関節の周りや腱鞘(けんしょう)に発生する、ゼリー状の液体が詰まった良性のしこりです。手首に発生することが多く、関節の動きに伴って大きさが変化することがあります。
悪性腫瘍(がん)によるしこりは、最も注意が必要な種類のしこりです。がん細胞は正常な細胞とは異なり、無制限に増殖し、周囲の組織に浸潤したり、他の臓器に転移したりする可能性があります。
乳がんは、乳房に発生するしこりの中で特に注意が必要なものです。多くは硬く、形がいびつで、周囲の組織に固定されて動きにくい特徴があります。痛みがないことも多く、早期発見のためには定期的なセルフチェックと検診が重要です。
皮膚がんは、皮膚に発生するしこりやできものががんである場合があります。基底細胞がん、有棘細胞がん、悪性黒色腫などがあり、形がいびつ、色が不均一、急速に大きくなる、出血するなどの特徴が見られることがあります。
軟部腫瘍(なんぶしゅよう)は、筋肉、脂肪、腱、神経、血管などの軟部組織に発生する腫瘍です。良性のものが多いですが、悪性(肉腫)の場合もあります。深い場所に発生することが多く、発見が遅れるケースもあります。
リンパ腫は、リンパ節のがんで、リンパ節の腫れとして現れることがあります。首、脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れ、痛みを伴わないことが多いです。
体が炎症を起こしたり、細菌やウイルスに感染したりした結果としてしこりが形成されることがあります。
リンパ節の腫れは、細菌やウイルス感染(風邪、インフルエンザなど)、炎症、またはがんの転移などによってリンパ節が腫れてしこりのように触れることがあります。首、脇の下、足の付け根(鼠径部)など、全身のリンパ節がある場所に発生する可能性があります。
おでき、せつ(癤)、よう(癰)は、毛穴や皮脂腺に細菌が感染して炎症を起こし、膿が溜まることで発生するしこりです。赤く腫れ、押すと痛みを伴うのが特徴です。
ニキビ(尋常性ざ瘡)は、毛穴が詰まり、皮脂が溜まって炎症を起こすことで発生するしこり(面皰、嚢腫など)です。思春期に多く見られますが、成人になってからも発生することがあります。
アレルギー反応による腫れは、虫刺されやアレルギー反応によって局所的に腫れ(膨疹や血管性浮腫など)が生じ、しこりのように感じられることがあります。
怪我や衝撃が原因で一時的または永続的なしこりが形成されることがあります。
血腫(けっしゅ)は、打撲などにより血管が破れて血液が皮下に溜まり、しこりのように触れることがあります。いわゆる「あざ」が大きく隆起した状態で、時間とともに徐々に吸収されることが多いです。
瘢痕(はんこん)は、怪我や手術、炎症などが治癒する過程で発生する組織の盛り上がり(ケロイドや肥厚性瘢痕など)がしこりのように感じられることがあります。体質によってはケロイドが大きくなることもあります。
しこりが良性か悪性かを自分で見分けるのは非常に困難であり、最終的な診断は医療機関での精密検査によってのみ可能です。しかし、一般的な傾向を理解しておくことは、適切なタイミングで医療機関を受診する判断材料となります。
良性のしこりと悪性のしこりには、いくつかの特徴的な違いがあります。ただし、これらは絶対的な判断基準ではなく、例外も多く存在するため、あくまで参考程度に留めておくことが重要です。
特徴 | 良性のしこりの一般的な傾向 | 悪性のしこり(がん)の一般的な傾向 |
触感 | 柔らかい、弾力がある、ゴムのような感触 | 硬い、石のようにゴツゴツしている |
可動性 | よく動く、コロコロする、周囲から独立している | あまり動かない、周囲の組織に固定されている |
形 | 丸い、楕円形、滑らか、境界がはっきりしている | 不規則な形、いびつ、境界が不明瞭 |
成長 | 比較的遅い、ある程度の大きさで止まることが多い | 比較的速い、進行性 |
痛み | 押すと痛みを感じる場合がある(炎症など) | 痛みを伴わないことが多い(特に初期) |
数 | 単発または複数できる | 単発が多い(転移がある場合は複数) |
表面 | 滑らか | ただれ、出血、ひきつれ、皮膚のくぼみなど |
全身症状 | なし、または炎症による発熱など | 体重減少、発熱、倦怠感、リンパ節の腫れなど |
例 | 脂肪腫、粉瘤、乳腺線維腺腫、リンパ節の腫れ(炎症) | 乳がん、皮膚がん、肉腫、悪性リンパ腫など |
これらの特徴はあくまで一般的な傾向を示すものであり、すべてのしこりに当てはまるわけではありません。良性のしこりでも硬いものがあり、悪性のしこりでも柔らかいものが存在します。また、痛みの有無だけで判断することも危険です。気になるしこりを見つけた場合は、必ず医療機関を受診し、専門医の診断を受けることが最も重要です。
体の部位によってしこりの特徴や注意すべき点が異なるため、部位別の適切なセルフチェック方法を理解することが重要です。定期的なセルフチェックを行うことで、しこりの早期発見につながり、適切な治療を受けるタイミングを逃さずに済みます。
セルフチェックは、入浴時やリラックスした時間に行うのが効果的です。月に1回程度の頻度で行い、普段の状態を把握しておくことで、変化に気づきやすくなります。チェックの際は、慌てず丁寧に行い、気になる変化があれば記録しておくことをおすすめします。
乳房のしこりは、女性にとって特に気になるしこりの一つです。乳房には乳腺組織が豊富に存在し、ホルモンの影響を受けやすいため、生理周期に伴って硬さや大きさが変化することがあります。
乳房に発生するしこりの多くは良性ですが、中には乳がんの可能性もあるため、定期的なセルフチェックと専門医による検診が非常に重要です。特に40歳以上の女性、家族歴のある女性、出産・授乳経験のない女性などは注意が必要です。
目で見るチェック(鏡の前で) | 手で触るチェック(仰向けで) |
1.まず両腕をだらりと下ろした状態で、鏡に映る乳房の形、大きさ、左右差、皮膚のくぼみやひきつれ、乳頭のへこみやただれがないかを確認します。 2.次に、両腕を上げて同様に確認し、 3.さらに両手を腰に当てて力を入れ、胸を張った状態でも確認します。 | 1.仰向けに寝て、片方の乳房をチェックします。 2.次に右の乳房は左手で、左の乳房は右手で触ります。 3.指の腹(人差し指・中指・薬指)を使い、乳房全体をくまなくチェックしましょう。 |
チェックの際は、乳房の外側から内側に向かって、らせん状に指を動かしながら触れていきます。乳房の上部、下部、内側、外側、中央部、脇の下まで、全ての範囲をチェックし、乳頭を軽く圧迫して、分泌物がないかも確認するようにしましょう。
首にはリンパ節や甲状腺など重要な器官が多く存在し、しこりが発見されることがあります。首のしこりは、感染症によるリンパ節の腫れから甲状腺の疾患、まれに悪性腫瘍まで、様々な原因が考えられます。
首のリンパ節は、細菌やウイルス感染に反応して腫れることが多く、風邪やインフルエンザの際に一時的に腫れることがあります。しかし、感染症の症状がないのに腫れが続く場合や、硬いしこりが触れる場合は、より詳しい検査が必要です。
目で見るチェック(鏡の前で) | 手で触るチェック |
1.首を左右にゆっくり傾けたり、顎を上げたり下げたりして、首全体の形や左右差、腫れがないかを確認します。 2.正面、側面、斜めから見て、普段と違う膨らみや変形がないかをチェックします。 | 1.指の腹で、首の側面、耳の後ろから鎖骨にかけて、顎の下から首の中央にかけて、まんべんなく優しく触ります。 2.特に、筋肉の縁や骨の近くなど、リンパ節が集中している部分を意識して触ってみましょう。 3.甲状腺があるのど仏の下あたりを触りながら唾を飲み込み、上下に動くしこりがないか確認します。 4.しこりの有無だけでなく、その大きさ、硬さ、痛み、動きやすさなどを確認するとよいでしょう。 |
脇の下もリンパ節が集中しているため、しこりが発生しやすい部位です。脇の下のリンパ節は、腕や胸部、乳房からのリンパ液を処理する重要な役割を持っています。
脇の下のしこりは、感染症による一時的な腫れから、乳がんの転移、悪性リンパ腫まで、様々な原因が考えられます。特に女性の場合、乳がんの転移として脇の下のリンパ節が腫れることがあるため、注意が必要です。
手で触るチェック |
1.片方の腕を少し上げ、もう片方の手の指の腹(人差し指、中指、薬指)を使い、脇のくぼみ全体を丁寧に触ります。 2.腕の付け根から胸側、背中側にかけて、リンパ節が集中している範囲をくまなく探しましょう。 3.硬さ、大きさ、痛み、動きやすさなどを確認し、左右の違いも比較します。 |
皮膚のしこりは、目で見たり触れたりしやすいため、比較的気づきやすい部位です。皮膚のしこりには、良性の脂肪腫や粉瘤から、悪性の皮膚がんまで、様々な種類があります。
皮膚のしこりで特に注意が必要なのは、急激に大きくなるもの、色が不均一なもの、形がいびつなもの、出血するもの、潰瘍化するものなどです。これらの特徴がある場合は、早急に皮膚科を受診することが重要です。
目で見るチェック | 手で触るチェック |
1.全身の皮膚を定期的にチェックします。特に顔、首、腕、手、足など、日光に当たる機会が多い場所は注意が必要です。 2.鏡を使って、手の届きにくい背中なども確認します。 3.以前からあるほくろやシミ、できものの色、形、大きさの変化がないかを確認するようにしましょう。 | 1.皮膚の表面を軽く触って、盛り上がりや硬さがないかを確認します。 2.新しくできたしこりや、以前からあるものの変化がないか注意しましょう。 |
しこりの治療法は、しこりの種類(良性か悪性か)、原因、大きさ、場所、症状の有無によって大きく異なります。自己判断で治療を行うことはできませんので、必ず医師の診断を受けて、適切な治療方針を相談することが重要です。
治療の流れは、まず正確な診断を行い、しこりの性質を明らかにすることから始まります。診断が確定した後、患者の状態や希望を考慮して最適な治療方法を選択します。治療後は定期的な経過観察を行い、再発の有無や治療効果を確認します。一般的な治療の流れを確認していきましょう。
診察・問診では、医師がしこりを発見した経緯、症状の変化、既往歴、家族歴、服用している薬剤などを詳しく聞き取ります。いつ頃から気になり始めたか、大きさや硬さの変化、痛みの有無、全身症状などの情報が診断に重要な手がかりとなります。
触診では、医師が直接しこりを触って、大きさ、硬さ、形、可動性、境界の明瞭さ、周囲組織との関係などを詳しく確認します。経験豊富な医師による触診は、しこりの性質を判断する上で非常に重要な検査です。
画像検査では、超音波(エコー)、X線(レントゲン)、CT、MRI、マンモグラフィ(乳房の場合)などを用いて、しこりの内部構造や周囲への広がりを詳しく調べます。これらの検査により、しこりの性質をより正確に把握できます。
病理検査(細胞診・組織診)では、しこりから細胞や組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べて、良性か悪性かを確定診断します。これが最も重要な検査で、治療方針を決定する上で不可欠な情報を提供します。
診断と治療方針の決定では、これらの検査結果に基づき、医師からしこりの状態と最適な治療法について詳しい説明があります。患者や家族と十分に相談して、治療方針を決定します。
治療方法は、しこりの種類によって大きく異なります。良性のしこりの場合は経過観察や外科的切除、悪性のしこりの場合は手術、化学療法、放射線療法などが選択されます。炎症性のしこりの場合は、抗生物質や抗炎症薬による薬物療法が行われることが多いです。
がんの早期発見は、治療成功率を大幅に向上させる最も重要な要素の一つです。しこりの中には悪性腫瘍(がん)によるものも存在するため、定期的な検査によるリスク評価が非常に重要です。
近年、がんのリスクを事前に評価する検査技術が発達し、より早期の段階でがんの可能性を発見できるようになっています。サリバチェッカーは、唾液を用いてがんのリスクを評価する検査方法です。唾液中に含まれる様々な物質を分析し、がんの可能性を早期に発見できる可能性があります。
サリバチェッカー最大の利点は、採血が不要で、自宅で簡単に検体を採取できる点です。唾液を専用の容器に採取して送るだけで、複数のがん種に対するリスク評価が可能です。特に、定期的な検診を受けることが困難な方や、検査に対する心理的負担を感じる方にとって、有用な選択肢となるでしょう。
家族にがんの既往歴がある方、生活習慣病のある方、喫煙歴のある方などは、定期的な検査を検討することをおすすめします。