胃がん検診といえば「バリウム検査」か「胃カメラ」、そして胃がんの原因は「ピロリ菌」なので除菌すれば安心と考えている方は多いでしょう。しかし、実はこの常識には「見落とし」につながる大きな落とし穴があります。バリウム検査には平坦ながんを見つけにくい「死角」があり、胃カメラは苦痛が原因で受診を避ける方が少なくありません。さらに、ピロリ菌を除菌した後は、胃の粘膜がきれいになることで、かえって早期がんが見つけにくくなるという問題もあります。
本記事では、胃がん検診に潜む3つの「壁」と、それを乗り越えるための最新の検査アプローチを詳しく解説します。ピロリ菌を除菌した方、バリウム検査の精度に不安がある方、胃カメラの苦痛が苦手な方は参考にしてみてください。
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ピロリ菌は胃がんの最大のリスク要因であり、除菌治療は非常に重要です。実際、ピロリ菌に感染したままの人と比べて、除菌した人の胃がん発生リスクは大幅に下がります。しかし、「除菌したからもう安心」と考えるのは危険です。ピロリ菌を除菌しても、胃がんのリスクはゼロにはなりません。除菌後も定期的な検査を続ける必要があります。その理由を詳しく見ていきましょう。
ピロリ菌の除菌に成功しても、胃がんのリスクは完全にはなくなりません。除菌治療を受けた方でも、その後数年から十数年の間に胃がんが発生することがあります。
研究データによると、ピロリ菌を除菌した人の胃がん発生率は、除菌しなかった人と比べて約3分の1程度に減少します。これは大きな効果ですが、裏を返せば「リスクが3分の1になった」だけで、「リスクがゼロになった」わけではないということです。
特に、長年ピロリ菌に感染していた方、除菌治療を受けた時点で既に胃の粘膜に萎縮(いしゅく)という変化が起きていた方は、除菌後も継続的な検査が必要になります。萎縮とは、胃の粘膜が薄くなり、本来の働きが低下した状態のことです。
ピロリ菌は除菌しない方がいいという意見を耳にすることがありますが、これは誤解です。除菌治療は胃がんのリスクを大幅に下げる有効な方法であり、むしろ積極的に受けるべき治療です。ただし、先ほども述べたように除菌しても完全にリスクはゼロになりません。その理由を正しく理解しておく必要があります。
除菌をしてもリスクが残る主な理由は、ピロリ菌が長期間にわたって胃粘膜に与えた「ダメージの痕」が完全に消えないためです。ピロリ菌の感染が長く続くと、胃の粘膜が薄くなり、萎縮した状態になります。この「萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)」の状態が、胃がんの前段階と考えられています。
一度進行してしまった萎縮性胃炎や腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)といった粘膜の異常な変化は、除菌薬では完全に元通りにはなりません。腸上皮化生とは、胃の粘膜が腸の粘膜のような性質に変化してしまう状態で、胃がんのリスクが高まります。
除菌によって炎症は治まり、新たな変化の進行は抑えられますが、既に起きてしまった変化は残ります。このため、除菌後も定期的な検査で胃の状態を監視し続ける必要があるのです。
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ピロリ菌除菌後の最も重要かつ必須の対策は、定期的な胃の内視鏡(胃カメラ)検査を続けることです。除菌に成功しても、胃がんのリスクは完全にはなくならないため、継続的な検査で胃の状態を監視する必要があります。
胃がんの多くは、ピロリ菌によってダメージを受けた粘膜から発生します。除菌後も、既に変化が起きてしまった粘膜からがんが発生する可能性があるため、定期的な監視(サーベイランス)が必要です。一般的には、除菌後も年に1回程度の胃カメラ検査を受けることが推奨されています。
特に注意が必要なのは、除菌後に胃の粘膜がきれいになることで、かえって早期がんが見つけにくくなる「修飾胃がん(しゅうしょくいがん)」という現象です。ピロリ菌に感染している胃は、粘膜が荒れて赤くなったり、萎縮して色が変わったりしているため、がんができた部分は比較的見つけやすくなっています。
ところが、除菌によって荒れていた粘膜がきれいに改善すると、早期がんまで正常な粘膜に紛れてしまい、胃カメラの専門医でさえも発見が難しくなるケースがあるのです。このため、除菌後の検査では、より慎重な観察が必要になります。

胃がん検診には主に胃カメラ(胃内視鏡検査)とバリウム検査(胃部X線検査)があります。それぞれにメリットとデメリットがあり、特に胃カメラは高い診断精度を持つ一方で、受診時の苦痛が大きな課題となっています。
胃カメラ検査の主なメリット・デメリットは、以下のとおりです。
それぞれ説明します。
胃カメラの最大のメリットは、診断精度の高さです。食道、胃、十二指腸の粘膜を医師が肉眼で直接観察できるため、画像検査(バリウムなどのX線検査)よりも遥かに小さな病変や、ごく初期の粘膜の変化も見逃しにくくなります。
バリウム検査では、胃の表面に影として映らないような平坦(へいたん)な早期がんや、わずかにへこんだ形の陥凹型(かんおうがた)のがんは見つけにくいという限界があります。一方、胃カメラでは、粘膜の色の変化やわずかな凹凸、質感の違いなど、細かな異常を直接確認できるため、バリウムでは見落とされやすいタイプのがんも発見できます。
胃カメラ検査では、病変が見つかった場合、その場で組織の一部を採取(生検)できます。採取した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、がんかどうか、がんであればどのような種類のがんかを正確に判断できます。
バリウム検査で異常が見つかった場合、確定診断のために結局は胃カメラ検査を受ける必要があります。最初から胃カメラ検査を受ければ、一度の検査で診断から確定まで完了するため、効率的です。生検によって得られる情報は、治療方針を決める上でも非常に重要になります。
ごく早期の食道がんや胃がんが見つかった場合、開腹手術をせずに内視鏡を使って病変を切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)といった治療を、診断と同時に行うことができます。
これらの治療法は、体への負担が少なく、入院期間も短くて済みます。早期がんであれば、胃を温存できる可能性が高く、患者さんの生活の質(QOL)を保ちながら治療できます。胃カメラは診断だけでなく、治療の手段としても優れているのです。
胃カメラの最大のデメリットは、検査時の苦痛です。口からスコープ(カメラがついた管)を入れる場合、舌の付け根に触れることで強い嘔吐反射(「オエッ」となる感覚)が起こりやすく、多くの方が不快感を感じます。
鼻から入れる経鼻内視鏡や、眠った状態で検査を受けられる鎮静剤を使う方法もありますが、追加費用がかかったり、検査後に安静時間が必要だったり、車の運転ができなくなるなど、手間やコストの問題があります。結果として、「胃カメラは苦しいから受けたくない」という理由で検査自体を避ける方が少なくありません。検査を受けないことが、最大の見落とし(発見の遅れ)につながっているのが現状です。
胃カメラ検査には、非常に稀ですが、検査や生検の際に出血や消化管の穿孔(せんこう:穴が開くこと)が起こるリスクがあります。特に、組織を採取する生検や、ポリープを切除する処置を行った場合に、このようなリスクがわずかに高まります。
ただし、偶発症の発生率は非常に低く、経験豊富な医師が適切に検査を行えば、ほとんど心配する必要はありません。万が一出血や穿孔が起きた場合も、多くは内視鏡を使って止血や修復ができます。リスクはありますが、早期発見による利益の方が遥かに大きいため、定期的な検査を受けることが推奨されています。
胃がんの早期発見において、胃カメラやバリウム検査は重要ですが、バリウムは平坦ながんを見落としやすく、胃カメラは苦痛で受診を避ける方が多いという課題があります。さらに、ピロリ菌除菌後は粘膜がきれいになり、かえってがんが見つけにくくなる問題もあります。
このような画像診断の限界を補う方法として、だ液でがんのリスクを調べるサリバチェッカーがあります。だ液を採取するだけで胃がんのリスクを評価でき、自宅で簡単に検査が完了します。胃カメラのような苦痛がなく、忙しい方でも気軽に受けられます。
サリバチェッカーは、だ液の中のマイクロRNAという物質を測定する検査です。画像診断とは異なり「見た目」に左右されないため、がんが平坦でも、ピロリ菌除菌後に粘膜がきれいになっていても、分子レベルの変化を捉えてリスク評価ができます。胃がんだけでなく、膵臓がんや大腸がんなど、複数のがんのリスクを一度にチェックできます。
ピロリ菌を除菌した方、バリウム検査の結果に不安がある方、胃カメラの苦痛が苦手な方は、サリバチェッカーで定期的にリスクをチェックしませんか。