近年、日本人の2人に1人が生涯のうちに癌にかかると言われるほど、癌は身近な病気となっています。実際、家族や友人など、周囲に癌を経験した方がいるという方も多いのではないでしょうか。誰もが発症する可能性があるからこそ、早めの対策が大切です。しかし、癌に関する情報は数多く出回っており、正しい予防策やどの程度実践すればいいのか、迷うこともあるかもしれません。
そこで本記事では、癌にならないために気をつけたい生活習慣や食事・運動のポイントをわかりやすく解説します。
今できる対策を知って、少しでも安心につなげていきましょう。
目次
「日本人の2人に1人が癌になる」というのは、国立がん研究センターが公表している統計データです。これは男女や年齢を問わず、誰もが一生のうちに癌を経験する可能性があることを示しており、癌が私たちの身近な病気となっていることがわかります。
一方で、「癌は遺伝や体質の問題だから予防は難しいのでは?」と考え、対策を後回しにしてしまいがちかもしれません。しかし、たばこや食習慣などの生活習慣を改善することで、癌のリスクを低減できることが科学的に示されています。
日々の行動を少しずつ見直すだけでも将来のリスクを下げることにつながるため、「癌を予防する生活を心がけること」と「症状が出る前の早期発見・早期治療につなげるための定期検診」の両方が大切です。
日本人に多い癌として、以下のような統計データがあります(2020年のがん罹患数・2023年のがん死亡数)。
がん罹患数の順位(2020年) | がん死亡数の順位(2023年) | |
1位 | 大腸がん | 肺がん |
2位 | 肺がん | 大腸がん |
3位 | 胃がん | 膵臓がん |
4位 | 乳房がん | 胃がん |
5位 | 前立腺がん | 肝臓がん |
ここからわかることは、大腸がんは罹患数でトップながら、死亡数では肺がんが最も多いことです。また、膵臓がんが死亡数で3位に入っているように、早期発見が難しい癌ほど死亡率が高くなる傾向があります。
癌の種類ごとに対策や治療法、早期発見の難易度は異なるため、いずれの癌でも定期的な検診やセルフチェックを行うことが大切です。さらに詳しい情報については、以下の関連記事にて解説しています。
関連記事:がんの死亡率統計|もっとも厄介ながんって?日本人に多いがんの種類も解説
癌を引き起こす原因は一つではなく、複数の要因が複雑に関わっています。日本人の癌の主な原因として、以下が挙げられます。
たばこに含まれる有害物質は肺や気管支だけでなく、全身に影響を及ぼします。喫煙は肺がんをはじめ多くの癌のリスクを高めるとされています。
アルコールは肝臓だけでなく、食道や大腸などさまざまな臓器への影響が指摘されています。適度な量を守ることが大切です。
塩分や脂質の過剰摂取、野菜や果物の不足などは癌のリスクを上げる一因と考えられています。
運動不足や肥満は生活習慣病のリスクを上げるだけでなく、ホルモンバランスや免疫機能の低下につながり、結果的に癌のリスクを高める可能性があります。
例えば肝炎ウイルスやピロリ菌など、一部の感染症は癌を引き起こすリスク要因として知られています。
これらの要因をできる範囲でコントロールすることが、癌の予防には重要です。
出典:がん情報サービス|科学的根拠に基づくがん予防|日本人におけるがんの要因
国立がん研究センターが提唱する「日本人のためのがん予防法(5+1)」では、日常生活を見直すことで癌のリスクを抑えられるとされています。ここでは、その柱となるポイントを6つご紹介します。
タバコを吸わないこと、受動喫煙を避けることが癌の予防の第一歩です。タバコに含まれるニコチンやタールなどの有害物質は、肺がんをはじめ咽頭や食道、膵臓など多くの部位のリスクを高める可能性があり、細胞の遺伝子にダメージを与えます。
自分の喫煙だけでなく、周囲の人が吐き出した煙を吸い込む受動喫煙も有害なので、禁煙と受動喫煙対策を徹底することが癌の発症リスクを抑えるうえで重要です。
アルコールの過剰摂取が、肝臓や食道、大腸など複数の癌のリスクを高める要因と考えられているため、飲酒量を減らし、できるだけ「節度ある適量」に抑えましょう。日本人はアルコール分解に関わる酵素の働きが弱い方も多く、少量の飲酒でも体への負担が大きい場合があります。
節酒に取り組むことで、アルコールによる細胞へのダメージを減らし、発がんリスクを下げることが期待できます。
塩分や糖分、脂質を過剰に摂りすぎないよう注意しつつ、野菜や果物などをバランスよく取り入れることが大切です。野菜や果物に含まれる食物繊維やビタミン、ミネラルは体の機能を整え、免疫力をサポートします。
一方、塩分・糖質・脂質の過剰摂取は肥満や高血圧などの要因となり、癌のみならず生活習慣病のリスクも高めます。こうした栄養バランスの見直しは健康維持全般に役立ち、結果的に癌を含む多くの病気から身を守ることにつながるでしょう。
ウォーキングや軽いジョギングなどの日常的な有酸素運動に加え、適度な筋トレを取り入れることで代謝を促進し、免疫機能や血行を良好に保つ効果が期待できます。運動は肥満やストレスの軽減にも役立ち、長期的に見るとさまざまな癌のリスクを下げる重要な要素です。
激しい運動をいきなり始める必要はなく、少しずつ日常に取り入れることで継続しやすくなり、健康維持と癌の予防に大きく貢献します。
BMI(体格指数)を適正範囲(18.5~25未満)に保つよう日ごろから食生活と運動習慣を調整することが大切です。肥満はホルモンバランスや代謝に影響を及ぼし、癌のリスクを高める要因とされる一方、過度に痩せすぎると免疫力や体力の低下につながります。
適正体重を維持することで、内臓や細胞に余計な負担をかけにくくなり、健康な身体状態を保ちやすくなるため、癌をはじめとした病気の予防に役立ちます。
肝炎ウイルスやピロリ菌、ヒトパピローマウイルス(HPV)など、一部の感染症は肝臓がんや胃がん、子宮頸がんなど特定の癌を引き起こすリスクと密接に関連しています。
検査やワクチン接種によって感染リスクを早期に把握し、必要な治療を行うことは、癌の発症を予防する効果的な手段となります。特にピロリ菌による胃がんなどは、除菌治療を行うことで将来のリスクを大幅に下げることが可能です。
私たちの身体は、日頃の食習慣によって大きく左右されます。がん予防の観点からも、過度の塩分摂取を控えたり、野菜や果物でビタミンやミネラル、食物繊維をしっかりと摂ったりすることがリスク低減に役立つとされています。さらに、飲み物や食べ物の温度にも注意するなど、ちょっとした工夫で身体への負担を軽減することが可能です。
ここでは、癌の予防につながる具体的な食事のポイントを紹介します。
いくらや塩辛など、塩分濃度の高い食品を日常的に多く摂取する方は、男女ともに胃がんのリスクが上昇するという報告があります。実際に、塩蔵食品や食塩の摂取を最小限にするよう心がけることで、胃がんのみならず高血圧や循環器疾患のリスクも下げることが期待できます。
1日の塩分摂取目安:男性7.5g未満、女性6.5g未満 |
厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日あたりの食塩摂取量を男性7.5g未満、女性6.5g未満にすることが推奨されています。しかし2019年の国民健康・栄養調査によると、実際の平均摂取量は男性10.9g、女性9.3gと、いまだに高い水準です。
塩分の過剰摂取は、がんの罹患率・死亡率への影響が試算されています。たとえば、男性では塩分に起因するがん罹患が3.0%、がん死亡が2.5%、女性ではがん罹患1.6%、がん死亡1.7%との推計結果もあります。減塩対策はがん予防のみならず高血圧や心臓病、脳卒中のリスク低下にもつながるため、日本人の平均摂取量をできる限り下げることが重要です。
【実践ポイント】
厚生労働省の資料によると、野菜・果物の摂取は食道がんや胃がん、さらに肺がんのリスク低下が期待されると報告されています。特に食道がんは喫煙・飲酒との関連が強い一方、野菜・果物をしっかり摂ることでリスクを下げられる可能性が示唆されています。また、野菜や果物は脳卒中や心筋梗塞など、生活習慣病の予防にも役立ちます。
1日の摂取目安:野菜350g以上、果物もあわせて1日400gを目指す |
厚生労働省が推進する「健康日本21」では、1日に350g以上の野菜摂取を目標としています。さらに果物を1日1皿程度加えることで、あわせて400gほど摂取できる計算です。2019年の国民健康・栄養調査では、20歳以上の野菜摂取量は平均280.5g、果物摂取量は平均100.2gとなっており、多くの人が目標値に届いていません。
【実践ポイント】
野菜や果物に含まれるビタミン、ミネラル、食物繊維などは、細胞の酸化ストレスを抑え、免疫力をサポートすると考えられています。不足しがちな場合は、まずは1日1種類、1食分の増量からスタートしてみましょう。
厚生労働省によると、熱いままの飲み物や食べ物を習慣的に摂取すると、食道の粘膜に繰り返しダメージを与え、食道がんリスクが増加するという研究報告があります。口腔や咽頭、食道の粘膜は高温に弱く、やけどのような炎症が長期的に続くと、細胞変異のリスクが高まると考えられています。
【実践ポイント】
飲み物や食べ物を少し冷ますひと手間で、口腔内や食道への過剰な刺激を軽減できます。こうしたちょっとした工夫を続けることが、将来的ながん予防にもつながります。
運動には体重管理や血行促進、免疫力向上など、多くの健康効果が期待できます。癌の予防においても、適度に身体を動かし、身体機能を整えることが大切です。
ここでは、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」をもとに、成人の目安を中心に紹介します。
日常生活で歩く時間を増やすことは、もっとも手軽に始められる運動習慣の一つです。目安は1日60分以上のウォーキング、あるいは1日8,000歩以上を目指しましょう。通勤や買い物の際に一駅分を歩く、エスカレーターではなく階段を使うなど、ちょっとした工夫で歩数を増やすことができます。
歩行などの軽い負荷の身体活動は、全身の血行をよくします。また、身体機能や筋力の維持・向上しやすくするため、肥満や高血圧などの生活習慣病をはじめ、癌のリスクを下げる効果が期待されます。特別な道具も必要なく、時間や場所を選ばず始められるメリットが得られるのも大きな特徴です。
ウォーキングより少し強度を上げたジョギングやサイクリング、エアロビクスなどの運動は、週合計で60分以上行うことが推奨されています。息が少し弾み、軽く汗ばむ程度の運動は心肺機能の向上にもつながり、新陳代謝を活発にすることで癌のリスク低減をはじめ、さまざまな健康効果が期待できます。
運動に慣れていない方は、最初は無理のない範囲で5分・10分と小分けにして行ってみましょう。慣れてきたら徐々に運動時間を伸ばしたり、強度を上げたりすることで、より効率的に健康増進に取り組めます。
適度な筋トレも筋力の維持・向上や基礎代謝を高められるため、脂肪の蓄積を防ぎ、肥満や糖尿病などのリスクを抑えやすくなります。また、筋力アップすることで、生活の質向上にもつながります。
スクワットや腕立て伏せ、プランクなど、自分の体重を利用した自重トレーニングなどは、自宅でも手軽に始められるためおすすめの方法です。週2~3回のペースで、1回あたり大きな筋肉(脚や背中、胸など)を中心に、適度に負荷をかけると効果的です。
運動後は筋肉を休める時間も必要なので、連日ではなく1日おき、もしくは部位を変えてトレーニングするなど、計画的に取り組むとよいでしょう。
高齢者は若い頃と比べて筋力・体力が低下しやすくなります。運動不足が続くと、生活習慣病やバランスを崩して転倒しやすいなどのリスクが増えます。健康寿命を延ばすために、リスクに配慮した以下のような運動習慣を取り入れることがおすすめです。
1日約6,000歩を目標に、無理のない範囲で外出や散歩の機会を増やしましょう。
軽めの筋トレやヨガ、体操、バランス運動などを取り入れると、筋力維持とともに転倒防止にも役立ちます。
体の状態に応じて、負荷を落とした筋トレや椅子の立ち座り運動などから始めましょう。
高齢者が運動を始める際は、体調や既往症に応じて医師のアドバイスを受け、無理のない範囲で少しずつ続けることが大切です。また、水分補給や気温管理にも注意しながら取り組みましょう。
子どもの運動習慣は体力向上や成長促進だけでなく、将来の健康づくりや癌を予防できる基盤にもなります。具体的には、以下のような活動が推奨されています。
ジョギングや水泳、球技などでしっかり汗をかき、全身を動かす時間を確保します。
全力疾走やジャンプ運動、スポーツの試合形式など、より強度の高い運動も適度に取り入れ、骨や筋肉を強くします。
子どもが運動するときは、やりすぎによるケガや熱中症に気をつけるとともに、楽しんで続けられる環境づくりが大切です。保護者のサポートや仲間とのコミュニケーションを大切にしながら、無理なく運動習慣を身につけましょう。
日々の生活習慣を見直すことで癌のリスクを下げられる可能性はありますが、それだけで完全に防ぎきれるわけではありません。早期発見・早期治療が重要な癌だからこそ、定期的な検診を受けることで「知らぬ間に進行してしまっていた」というリスクを大きく減らすことができます。
近年はがん検診も多様化しており、病院で受ける通常の検査だけでなく、検査キットを活用して自宅で気軽にチェックできる方法も増えてきました。なかでも注目されているのが、唾液を用いた「サリバチェッカー」という検査キットです。
慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究成果をもとに開発されたもので、唾液中に含まれる癌特有の代謝物を超高感度分析装置で測定し、AI解析を用いて総合的にリスクを評価します。一部の癌においては、高い精度での検知が報告されており、病院での検査が苦手な方や忙しくて時間の取れない方でも、自宅で簡単にチェックできる点が大きなメリットです。
積極的な予防策と定期的なチェックを行うことで、癌に対する備えを万全に整えておくことが大切です。「自分はまだ大丈夫」と思わず、できるところから一歩ずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。