近年、糖尿病患者は増加の一途をたどっており、日本国内だけでも予備群を含めると2,000万人を超えるという推計があります。「最近、健康診断で血糖値が高いと言われた」「家族に糖尿病の人がいるけど、自分も気をつけた方がいいのだろうか」こうした不安や疑問を、抱いている方も少なくないでしょう。
本記事では、糖尿病の主な種類(1型、2型、妊娠糖尿病、LADA)や血糖値の正常値、さらには合併症やがんとの関係について詳しく解説します。糖尿病について理解を深めたい方は、ぜひ最後までお読みください。
糖尿病とは、血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高くなってしまう病気の総称です。糖尿病には大きく分けて1型、2型、妊娠糖尿病、LADA(成人潜在性自己免疫性糖尿病)などの種類があり、それぞれ原因や治療法が異なります。
日本国内では2型糖尿病が圧倒的に多く、全体の約90%以上を占めるといわれています。1型やその他の種類は症例数が少ないものの、若年層や妊娠中の女性など、特定のライフステージで発症するリスクが存在します。糖尿病の代表的な種類は、以下のとおりです。
それぞれ説明します。
1型糖尿病は、体がインスリンをほとんど作れなくなることによって血糖値が上昇する病気です。膵臓にあるインスリン分泌を担うβ細胞が破壊されるため、自己免疫疾患が主な原因と考えられています。
若年層の発症が多いものの、大人になってから発症する「急性発症1型糖尿病」もあります。急激に症状が進行することがあり、喉の渇きや多尿、体重減少などが顕著に現れるケースも少なくありません。
1型糖尿病は、インスリン注射による治療が不可欠です。インスリンを自己注射もしくはインスリンポンプなどの医療機器で補わなければ、血糖値を正常に保つことが難しくなります。
2型糖尿病は、インスリンが十分に分泌されなくなる、あるいは「分泌されていても体の細胞がインスリンに抵抗性を持つ」ことで発症します(インスリン抵抗性)。
2型糖尿病は遺伝的な要因に加え、肥満・運動不足・食生活の乱れなどの生活習慣が大きく影響しています。日本人の糖尿病の約90%以上はこの2型とされ、働き盛りの年代に多く見られるのが特徴です。
治療には、食事療法、運動療法、薬物療法(内服薬やインスリン注射)が組み合わされることが一般的です。2型糖尿病は初期症状が緩やかで気づきにくいため、検診の結果などで早めに対策を打つことがポイントです。
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて血糖値が高いと診断される状態を指します。妊娠によって分泌されるホルモンがインスリンの働きを阻害するため、血糖コントロールが難しくなるのです。
妊娠糖尿病を放置すると、母体だけでなく胎児にも影響を及ぼす可能性があります。通常は出産後に血糖値が正常に戻るケースが多いですが、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが高まることを把握しておかなければなりません。
妊娠糖尿病は、基本的には食事療法や適度な運動療法を中心に管理し、必要に応じてインスリン注射を行うことがあります。妊娠糖尿病と診断された場合は、産科医だけでなく内科医や管理栄養士など、多職種によるケアを受けるのが理想的です。
LADA(Latent Autoimmune Diabetes in Adults)は、成人期以降にゆっくり進行する1型糖尿病とも呼ばれています。
1型糖尿病のように膵臓のβ細胞が自己免疫によって徐々に破壊される一方、2型糖尿病と似たような症状で始まるため、はじめは2型と診断されてしまうことが多いのです。しかし、次第にインスリン分泌量が著しく減少するため、インスリン治療が必要になる場合が少なくありません。
緩やかな経過をたどるため、診断が遅れがちになってしうのもLADAの特徴です。食事療法や薬物療法を続けていても血糖コントロールが難しい場合は、LADAを考慮する必要があります。
血糖値とは、血液中のブドウ糖濃度を示す数値です。食事や運動、ストレスなど日常のさまざまな要因で変動しやすいため、測定するタイミングが重要です。一般的には「空腹時(10時間以上何も食べていない状態)」と「食後2時間」で測定することが多く、空腹時血糖値が70~109mg/dL、食後2時間では140mg/dL未満が正常の目安とされています。
これらを超えた数値が続く場合は、境界型(糖尿病予備群)や糖尿病の可能性があるため、早めに医療機関で検査を受けることが大切です。
以下の表は、空腹時血糖値における各判定区分と基準値の目安をまとめたものです。これを参考に、健康診断や血液検査の結果をチェックしてみましょう。
判定区分 | 空腹時血糖値(mg/dl) | 状態の目安 |
正常値 | ~99 | 健康な範囲(食事や運動で一時的に変動しても戻る) |
正常高値 | ~109 | やや高めの数値。糖尿病予備群の可能性もある |
境界型(予備群) | 110~125 | 放置すると糖尿病へ進行しやすく、要注意 |
糖尿病型 | 126以上 | 糖尿病を強く疑う数値で、早急な受診が必要 |
もし空腹時血糖値が126mg/dL以上を示したり、加えて食後血糖値が140mg/dLを大幅に超えていたりする場合、詳しい検査(HbA1c測定やブドウ糖負荷試験など)による確認が望まれます。
血糖値が慢性的に高い状態が続くと、身体のさまざまな部位に負担がかかり、合併症を引き起こします。合併症には、大きく分けて慢性合併症と急性合併症がありますが、特に慢性合併症は長い時間をかけて進行するため注意が必要です。
細い血管(毛細血管)がダメージを受けることで起こる障害を細小血管障害と呼びます。糖尿病では以下のような病気が代表的です。
網膜症は、視力を司る網膜内の血管がダメージを受けることで起こります。初期段階では症状が出にくいですが、進行すると視力低下や最悪の場合は失明のリスクも生じます。網膜症の予防あるいは早期診断には、定期的な眼科検診が推奨されています。
腎臓は血液中の老廃物をろ過する重要な臓器です。高血糖によってろ過を担う糸球体の毛細血管が障害されると、徐々に腎機能が低下してしまいます。重症化すると、人工透析が必要になるケースもあるため、日頃から血圧管理や適切な食事療法を行うことがポイントです。
毛細血管の障害は神経への血流にも影響を及ぼし、自律神経や末梢神経にトラブルが発生します。具体的には、立ちくらみ、下痢、便秘、排尿障害、勃起障害などが挙げられます。また、痛覚が鈍くなり傷やヤケドに気づかず放置してしまい、壊疽(えそ)に至る場合もあるため注意が必要です。
太い血管が動脈硬化などを起こしやすくなることで、重篤な病気に発展します。糖尿病に伴う大血管障害は日本人の死亡原因にも大きく影響しており、定期的な検査・管理が欠かせません。
脳の血管が血栓で詰まると、突然の意識障害や手足のまひ、ろれつが回らないなどの症状が現れます。脳は体の司令塔ともいえる重要な器官なので、早期の治療が生死を分けることもあります。
心筋梗塞は、心臓を養う冠動脈に血栓が詰まって起こる病気です。冠動脈が狭くなるだけでも狭心症の原因になりますが、完全に詰まると心筋細胞が壊死して激しい胸痛や呼吸困難が生じ、生命に関わる可能性があります。
脚を通る動脈が動脈硬化を起こすと、血流が悪化して潰瘍が治りにくくなります。さらに放置すると足壊疽(えそ)を起こし、最悪の場合は切断を余儀なくされることもあります。神経障害があると痛みに気づきづらい点も、状態を悪化させる要因の一つです。
高血糖の影響は血管障害だけにとどまらず、免疫力の低下や感染リスクの上昇など、全身に多様なトラブルを引き起こす可能性があります。
血糖値が高いと、口腔内の細菌繁殖が活発になり、歯ぐきの腫れや出血などの歯周病が進行しやすくなります。放置すると歯を支える骨まで破壊されるため、歯が抜け落ちる恐れもあります。
高血糖状態では、肺結核、尿路感染症、皮膚感染症など、各種感染症にかかりやすくなります。切り傷や擦り傷が治りにくい、あるいは化膿しやすいといった症状がある場合は、血糖コントロールが不十分になっていないか早めに確認することが大切です。
近年、糖尿病とがんの間に密接な関連があることがわかってきました。日本でおこなわれた、ある研究では、糖尿病がある人は、糖尿病のない人と比べてがん死亡リスクが1.3倍、がん発症リスクが1.2倍に増加することが示唆されています。
とくに、2型糖尿病の患者さんにおいては、大腸がん・肝臓がん・膵臓がんのリスクが高まることが日本人を対象にした研究で報告されています。2型糖尿病は肥満や生活習慣の乱れなどが重なって発症する場合が多く、こうした生活習慣自体ががんのリスク上昇と共通していることも、その一因です。実際、肥満や運動不足、過剰な飲酒や喫煙は、多くのがんを引き起こす危険因子の1つでもあります。
糖尿病とがんの関係については、とくに2型糖尿病におけるインスリン抵抗性が大きく関与していると考えられています。インスリンは血糖を下げるホルモンですが、同時に細胞の増殖を促す作用も持ち合わせているのです。
2型糖尿病の患者さんでは、インスリン抵抗性により血糖値が下がりにくいため、膵臓がより多くのインスリンを分泌しようとします。その結果、高インスリン血症の状態が続き、がん細胞の増殖を助長する可能性があるのです。
さらに、血糖値が慢性的に高い状態は、体内で酸化ストレスを増大させやすくなります。酸化ストレスが高まると、細胞のDNAにダメージを与えやすくなり、がんの発生や進行に関わる遺伝子の正常なはたらきが乱される恐れがあります。このように、糖尿病特有の高インスリン血症と高血糖が、複合的にがんの発症リスクを押し上げていると考えられています。
糖尿病と診断された方の中には、実は膵臓がんが隠れていたというケースがあります。膵臓はインスリンを分泌して血糖値を下げる重要な器官です。ここにがんができると、インスリンの分泌量が低下して血糖コントロールが急激に悪化し、高血糖につながります。
また、糖尿病のある方の膵臓がん発症リスクは、糖尿病がない人の約2倍といわれています。生活習慣を大きく変えていないのに「急に血糖値が上がった」「糖尿病かもしれないと指摘された」というような場合には、まず膵臓がんの可能性を疑う必要があります。
肥満でもないのに血糖値が急上昇したら、念のため専門医に相談してみましょう。早期に発見できれば、適切な治療や手術を受ける選択肢が広がります。
糖尿病はさまざまな合併症やがんリスクと深く関係しています。しかし、どのようながんでも早期発見・早期治療が最も効果的です。そのためにも、定期的な健康診断や専門医による検査だけでなく、リスク検査を活用してみるのはいかがでしょうか。
サリバチェッカーは、だ液を採取するだけでがんリスクを簡単に評価できる検査です。臨床研究データから作成されたAI(人工知能)が、だ液中の代謝物の特徴からがんリスクを評価します。
糖尿病がある方は、通常の血糖コントロールに加え、「がんリスクも早めにチェックする」という意識を持つことが大切です。がんは初期の段階では自覚症状が乏しいことが多いため、予防的な検査を受けておくことで、万が一のリスクにも素早く対処できるでしょう。