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マイクロRNA(miRNA)とは?メッセンジャーRNAとの違い、がん検査への実用化について解説

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マイクロRNA(miRNA)とは?メッセンジャーRNAとの違い、がん検査への実用化について解説

がん検診の結果を待つ間、落ち着かない気持ちになったことはありませんか?

がんは誰にとっても不安な病気ですから、そのような心配をするのは決して珍しくありません。定期的に検診を受けていても、不安が完全になくなることはないものです。「もっと簡単に早期発見できる方法があれば...」と感じたことがある方もいるでしょう。

そんな不安を和らげる新しい方法として、最近「マイクロRNA(miRNA)」という言葉が注目を集めています。マイクロRNAとは聞き慣れないかもしれませんが、ごく小さなRNAの一種で、体の中で重要な働きをしています。その発見と役割が評価され、発見者にはノーベル賞が贈られたほどです。

そして今、このマイクロRNAを調べることで、より早期にがんリスクを検出する「マイクロRNA検査」という最先端の技術が現れつつあります。この検査法なら、少量の血液や尿から複数のがんの兆候を高い精度で調べられるのではないかと期待されています。

本記事では、マイクロRNAとは何か、よく耳にするメッセンジャーRNA(mRNA)との違い、そしてマイクロRNAを利用した最新のがん検査について、わかりやすく解説していきます。

マイクロRNA(miRNA)とは

マイクロRNA(microRNA: miRNA)とは、約21〜25塩基の長さを持つ小さな一本鎖RNAです​。mRNA(メッセンジャーRNA)のようにタンパク質へ翻訳されないノンコーディングRNA(タンパク質に翻訳されないRNA)であり、細胞内で遺伝子の発現を調節する重要な役割を担っています​。

具体的には、miRNAは特定のmRNA(タンパク質の設計図となるメッセージRNA)に部分的に相補的な塩基配列を見つけて結合し、そのmRNAがタンパク質に翻訳されるのを抑制します​。このようにしてmiRNAは遺伝子の発現量(作られるタンパク質の量)を細かく調整するのです。 

わかりやすく例えると、miRNAは遺伝子の「出力」にブレーキをかけるような存在です。必要に応じてメッセンジャーRNAに貼り付き、そのメッセージが使われてタンパク質が作られすぎないように制御します。

例えると、ボリュームのつまみや調光スイッチのように、細胞内の各遺伝子の働きを微調整する遺伝子の制御役がmiRNAなのです。

そもそもRNAとは?

RNA(リボ核酸)は、DNA(デオキシリボ核酸)と同じく遺伝情報を担う核酸の一種です。しかしその役割はDNAと異なり、DNAが遺伝情報の「保管庫(設計図のアーカイブ)」だとすれば、RNAはその情報を「取り出して伝え、実際に使う」役割を担っています​。

生物の遺伝情報は多くの場合「DNA → RNA → タンパク質」という流れで伝達・実行されます​。DNAからRNAを写し取る過程を「転写」、RNAの情報からタンパク質を合成する過程を「翻訳」と呼びます。この情報伝達の仲立ちとして機能し、DNAの持つ設計図を具体的なタンパク質という「形」にする架け橋となっているのがRNAです。 

DNAは二重らせん構造の二本鎖ですが、RNAは通常一本鎖で存在するのが特徴です​。RNAは「リン酸」「糖(リボース)」「塩基」からなるヌクレオチドが多数連なってできた長い鎖状の分子で、DNAと構造は似ていますがいくつかの違いがあります​。

例えば、RNAを構成する塩基はアデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類で(DNAではチミン(T)の代わりにウラシルが含まれる)、RNAではAとU、GとCがペアとなって塩基対を形成します​。自分自身で折りたたまれて二重らせんのような構造をとることがあります。

このようにRNAは一本鎖でありながら、内部でDNAに似た塩基のペアリングを作る柔軟な構造を持っています。

RNAの主要な種類

RNAにはさまざまな種類があり、それぞれ異なる働きを担っています。中でもタンパク質合成(遺伝情報の「翻訳」)に直接関わる代表的なRNAとして「メッセンジャーRNA(mRNA)」「トランスファーRNA(tRNA)」「リボソームRNA(rRNA)」の3種類が挙げられます。

ここでは、それぞれを詳しく解説します。

メッセンジャーRNA(mRNA)

メッセンジャーRNA(mRNA)は、DNAの遺伝情報を写し取って合成(転写)されるRNAで、タンパク質の設計図となる情報(塩基配列)を運ぶ役割を持ちます​。

具体的には、細胞核内でDNAからコピーされたmRNAが細胞質のリボソームまで移動し、その塩基配列の情報をタンパク質合成装置に伝達します。たとえて言えば「設計図のコピーを現場(リボソーム)に届けるメッセンジャー」として働く存在です。

トランスファーRNA(tRNA)

トランスファーRNA(tRNA)は、タンパク質を構成するアミノ酸を運搬するRNAです。mRNAの塩基配列(コドン)を読み取り、それに対応するアミノ酸を拾ってリボソームまで届けます​。

mRNA上の「設計図」に書かれた指示に従って必要な種類・順番でアミノ酸を運んでくる、「設計図を読み取り必要な部品(アミノ酸)を持ってくる職人」のような役割を果たします。

リボソームRNA(rRNA)

リボソームRNA(rRNA)は、リボソーム内部で触媒(酵素)のような働きを示すRNAです。大小2つのサブユニットからなる巨大なRNA・タンパク質複合体であり、その中心にrRNAが存在してリボソームを構築しています​。

rRNAはリボソーム内でアミノ酸同士を結合させるペプチド結合の形成を促進し、新しいタンパク質の合成を助けることが知られています​。たとえるなら、rRNAはmRNAとtRNAの架け橋となり、運ばれてきたアミノ酸を次々とつなぎ合わせていく「接着役の職人」のような働きをするRNAなのです。

マイクロRNAとメッセンジャーRNAの違い

マイクロRNAとメッセンジャーRNAのそれぞれの違いについて、表にまとめました。

マイクロRNAメッセンジャーRNA
長さ21〜25塩基ほどの超ミニサイズ数百〜数千塩基と比較的長い
機能遺伝子発現の「ブレーキ役」タンパク質合成の「設計図」
翻訳されない(ノンコーディング)リボソームで翻訳される
標的特定mRNAの3’UTRなどコドンに応じ全身のリボソーム
結合様式部分的な相補で結合tRNAとコドンが完全一致
起源独立した遺伝子から転写DNAのタンパク質コード領域
疾患との関連性がん・代謝疾患など多数変異で先天異常・がんなど

マイクロRNAは遺伝子発現のブレーキ役、メッセンジャーRNAはタンパク質合成の設計図というイメージです。

ノーベル賞で注目!マイクロRNAの役割

2024年のノーベル生理学・医学賞では、マイクロRNAの発見とその遺伝子制御メカニズムの解明が高く評価されました​。この受賞によって一躍注目を集めているのが「マイクロRNA」です。

マイクロRNA(miRNA)は、わずか20塩基ほどのごく短いRNA(リボ核酸)で、体内で遺伝子の発現を調節する重要な役割を担っています​。DNAから作られたメッセンジャーRNA(mRNA)という“設計図”からタンパク質が合成される際に、微調整のスイッチを入れるように働くのです。

こうした仕組みにより、タンパク質が作られすぎたり異常に働いたりしないよう、マイクロRNAが“調整役”として細胞内のバランス維持に貢献しています。

タンパク質の翻訳を抑制する

マイクロRNAが遺伝子の働きを抑えるメカニズムの一つに、タンパク質合成(翻訳)の段階にブレーキをかける方法があります。成熟したmiRNAは、特定のメッセンジャーRNA(mRNA)の末端にある3’UTR(3’非翻訳領域)と呼ばれる部分に、自身の塩基配列を一部マッチさせて結合します。

3’UTRは、いわば「設計図の余白」のような領域で、タンパク質の配列情報自体は含まず翻訳には直接関わらないものの、遺伝子発現の調節には重要な意味を持つ部分です。

miRNAが3’UTRに結合すると、リボソーム(タンパク質合成工場の機械)がmRNAを読み取るのを妨げ、結果としてタンパク質が合成されにくくなります。例えるなら、工場の生産ラインに「一時停止」の札を下げて、一時的に製造をストップさせるようなイメージです。

メッセンジャーRNAの分解を促進する

miRNAの抑制作用は翻訳を止めるだけにとどまりません。実は、標的となったmRNA自体を破壊し、より確実にタンパク質産生をストップさせる仕組みも備わっています。miRNAが標的mRNAにくっつくと、RISC(RNA誘導サイレンシング複合体)という複数の酵素からなる“分解チーム”が活性化されます。

RISCは目印となったmRNAを切断し、細切れに分解してしまいます。この作用によって設計図そのものが失われるため、もはやそのmRNAからタンパク質を作ることはできません。こうして細胞内のタンパク質量は過不足なく精密にコントロールされています。

マイクロRNA検査とは|がん検査の実用化はいつから?

マイクロRNAは細胞内で遺伝子の働きを調節する小さなRNA分子で、がん細胞では特有のマイクロRNAパターンの変化が見られます​。例えば、がんになると血液中で特定のマイクロRNAが増えたり、健康な人には見られない種類のマイクロRNAが検出されたりします​。

この違いを手がかりにすれば、血液中のマイクロRNAから、がんの有無を高い精度で判別できるのです。 こうした性質を活用して、マイクロRNA検査はがんの早期発見や診断だけでなく、予後(病気の進行予測)の評価や治療効果の判定にも応用が期待されています​。

実際、マイクロRNAによる複数がん同時検査の研究が進み、体への負担が少ない新たながん検診技術として注目されています。 日本では2019年に国立がん研究センターなどの研究グループが、血液中のマイクロRNA解析によって13種類のがんを同時に見分ける診断モデルを開発しました​。

現在も実用化に向けた臨床研究や事業化の取り組みが続けられており、近い将来の実用化が期待されています。

マイクロRNAがん検査の仕組み

がん細胞やその周辺の細胞は、がんのごく初期段階から通常とは異なるマイクロRNAを体内(血液や尿など)に放出します​。そのため、少量の血液や尿を採取してマイクロRNAのパターンを分析すれば、体内で起きている異変のサインを捉えることが可能です。

実際にこの方法で、健康な人とがん患者を高精度に見分けられることが示されています​。従来の腫瘍マーカー検査では見逃しがちな超早期のがんの兆候も、マイクロRNA検査なら検出できる可能性があります。 

国立がん研究センターの研究では、マイクロRNAの分析によって13種類のがんを判別できることが確認されました​。対象となったのは、胃がん・食道がん・肺がん・肝臓がん・胆道がん・膵臓がん・大腸がん・卵巣がん・前立腺がん・膀胱がん・乳がん・肉腫・神経膠腫(脳腫瘍)と、多岐にわたるがん種です​。

血液中のマイクロRNAデータベースと照合することで、これらのがんの有無を高精度に識別できることが世界に先駆けて示されました。

引用:国立がん研究センター|血中マイクロRNAによって13種のがんを高精度に区別できることを実証

マイクロRNAがん検査の精度

東京医科大学と国立がん研究センターの共同研究では、マイクロRNA検査によって99%という非常に高い判別精度が示されました​。この技術を用いると、がん患者と健常者をほぼ完全に見分けることができたと報告されています​。この中にはステージ0(超早期)*のがんのケースも含まれていました​。

通常の画像診断(CT、MRIなど)では発見が難しいような小さながんでも、血液中のマイクロRNAのわずかな変化を捉えることで検出できる可能性が示されています​。

*ステージ0とは、がんが発生したごく初期段階で腫瘍が非常に小さい状態

マイクロRNAがん検査の費用

現在、このマイクロRNAを用いたがんリスク検査は、一部の民間企業や医療機関で先進的なサービスとして提供され始めています。費用は1回あたり約5万円が目安で、複数のがんリスクをまとめて調べられる内容です​。マイクロRNA検査サービスでは、大腸がん・肺がん・胃がん・乳がんなど最大7種類のがんリスクを一度に評価できます​。

ただし、これらは自由診療(保険適用外)の検査であり、費用は全額自己負担となります​。病院で受ける通常のがん検診とは異なり、あくまで任意で受ける先進的なスクリーニング検査という位置づけです。

がんの早期発見にはリスク検査が有効

がんは、症状が出てからでは進行していることが多く、「見つけるのが早ければ早いほど助かる病気」ともいわれています。だからこそ、早期に“兆候”をつかむリスク検査が注目されています。

近年は、血液や唾液といった体への負担が少ない方法で、がんのリスクを調べられる検査が登場しています。中でもマイクロRNAを使った検査は、がんのごく初期から現れる分子の変化を捉えられる点で、次世代のがん検診として期待されています。

こうした中で注目されているのが、自宅で唾液を採取してがんリスクをチェックできる「サリバチェッカー」です。この検査は、慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究成果をもとに開発されたもので、唾液中の代謝物を超高感度で測定し、AIが総合的にリスクを評価します。

わずか数分の唾液採取で、複数のがん(たとえば胃がん、大腸がん、すい臓がん、肺がんなど)のリスクを一度にスクリーニングできるという、まさに手軽で先進的な予防ツールです。病院に行く時間がない方、検査に苦手意識がある方でも、リスクを知ることで、早めの行動につなげることができます。

「自分にはまだ関係ない」と思っていたがんも、気づかぬうちに進行してしまうことがあります。だからこそ、自宅でできるスクリーニング検査を「一歩目のがん対策」として活用してみてはいかがでしょうか。