急な「血糖値の上昇」や「背中の痛み」があらわれ、不安を感じていませんか?
生活習慣に心当たりがないのに「急に糖尿病になった」「糖尿病が悪化した」という場合、その陰には「膵臓(すいぞう)がん」などの疾患が隠れている可能性があります。
膵臓は初期症状が出にくい臓器ですが、血糖値の異常や背中の鈍痛は、早期発見につながる重要なサインです。
この記事では、膵臓がんと血糖値・背中の痛みの関係や、見逃してはいけないサインのセルフチェック、受けるべき検査についてわかりやすく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、不安を解消して適切な医療機関を受診するための第一歩としてご活用ください。
目次

膵臓が正常に機能しなくなると、消化を助ける働きや血糖値を調節する働きが乱れ、全身にさまざまな症状があらわれます。いずれも日常的な不調に似ているため見過ごされやすいですが、代表的なサインを知っておくことが早期発見のカギになります。
膵臓は、血糖値を下げるホルモン「インスリン」を体内で唯一つくることができる臓器です。そのため、膵臓の機能が低下するとインスリンの分泌が不足し、血糖値が上がりやすくなります。
これまで健康診断で異常を指摘されたことがなかったのに急に血糖値が高くなったり、治療中の糖尿病が短期間で急激に悪化したりする場合、膵臓の機能が低下している可能性が考えられます。思い当たる原因がないまま血糖値が上がってきた場合は、一時的なものと決めつけず、一度膵臓の状態を確認することが大切です。
みぞおちから上腹部にかけての鈍い痛みや重苦しさは、膵臓がん患者の約8割にみられると報告されている症状です。膵臓がんで比較的多くみられるのが、みぞおちから上腹部にかけての鈍い痛みや重苦しさです。食後に痛みが増したり、仰向けで寝ると違和感が強まって前かがみになると少し楽になったりする場合は、胃や腸だけではなく、膵臓が関係している可能性があります。
出典:日本膵臓学会「膵癌診療ガイドライン2022」より
膵臓は胃の後ろ側、背中に近い深い位置に存在しています。そのため、膵臓に炎症や腫瘍が生じると、背中の中心から腰のあたりに広がるような鈍い痛みやだるさを感じることがあります。背中や腰の痛みは筋肉のこりや疲れと思われがちですが、血糖値の異常も同時にある場合は、とくに注意すべきサインです。
膵臓の右側にある「頭部」と呼ばれる部分に腫瘍ができると、肝臓で作られた消化液(胆汁)の通り道が塞がれてしまいます。その結果、胆汁の成分である「ビリルビン」が血液に逆流し、皮膚や目の白い部分が黄色くなる「黄疸」があらわれます。
黄疸が起きると、尿は濃い褐色になったり、便が灰白色に近づいたりすることがあります。こうした色の変化が数日以上続く場合は、消化器系の異常を疑うサインになります。
膵臓の機能が低下すると、食欲不振に加えて食べ物を消化・吸収する力が弱まるため、しっかり食べているつもりでも栄養が体に届きにくくなります。その結果、数ヶ月の間に数キロ単位の体重減少がみられることもあります。
膵臓が正常に働いていると、食事に含まれる脂質を分解する消化酵素が腸に届けられます。しかし、膵臓の機能が低下すると、脂肪が十分に消化されず、油っぽく光沢のある便になることがあります。水に浮いたり、強い臭いを放ったりするのも特徴のひとつです。

急な血糖値の上昇の背景に、膵臓の機能低下が隠れていることがあります。ここでは、膵臓と血糖値の関係について解説します。
膵臓は大きく二つの機能を担っています。一つは、食べ物を消化するための膵液を腸に分泌する「外分泌機能」で、もう一つは、血糖値を調節するホルモンを血液中に送り出す「内分泌機能」です。とくにインスリンは、血糖値を下げる働きを持つホルモンで、体内では膵臓でしか産生されません。この膵臓に異常が起きると、インスリンの分泌が減り、血糖コントロールが乱れることになります。
インスリンは血糖値を下げる働きを持つホルモンであり、膵臓内に点在する「ランゲルハンス島」のβ細胞(インスリン工場)から分泌されます。
膵臓がん(腫瘍)がこの工場を破壊して機能不全に陥らせる主な原因は、がんに付随して引き起こされる「膵炎」です。膵臓に腫瘍ができると膵炎を伴うことがあり、この炎症が膵臓の組織にダメージを与えます。その結果、インスリンの分泌量が低下し、血糖値やHbA1cが上昇する「耐糖能異常」をきたします。
このようにインスリンの分泌が阻害されるため、糖尿病の新規発症や急激な悪化は、膵臓がんを発見するための重要なサインとなります

近年の研究では、糖尿病と診断されてから2年以内の人は、糖尿病でない人と比べて膵臓がんの発症リスクが高まると報告されています。とくに中高年で急に糖尿病を発症した場合には注意が必要です。
出典:日本膵臓学会「膵癌診療ガイドライン2022」より
膵臓がんの細胞から放出される物質が、インスリンの効き目を弱める働き(インスリン抵抗性)を引き起こす可能性も指摘されています。これにより、膵臓がんが進行する過程で血糖調節機能が乱れ、糖尿病のような状態が生じると考えられています。
関連記事:糖尿病が急に悪化するとどうなる?膵臓がんになると血糖値はどのくらい?リスクを解説
一般的な糖尿病は、食生活の乱れや運動不足、肥満などが主な原因として知られています。一方、ほかの病気が原因となって血糖値が高くなる「二次性糖尿病」というタイプもあります。膵臓がんが原因で起こる糖尿病もそのひとつで、「膵性糖尿病」とよばれる、生活習慣とは無関係に発症するのが特徴です。血糖値の上昇に加えて背中の痛みなどの症状が重なる場合は、膵臓からの重大なサインと受け止め、早めに消化器内科を受診することをおすすめします。
関連記事:背中(右側・中央・左側)の痛みの原因は?がんによる痛みの特徴も解説

誰でも膵臓がんになる可能性はありますが、なりやすい体質や背景があることもわかっています。自分に当てはまる要因がないか、確認しておきましょう。
親や兄弟など近しい血縁者に膵臓がんの患者がいる場合、発症リスクは一般の人と比べて2~3倍高まるとされています。家族内で複数人が発症している場合は、リスクがさらに高くなることも知られています。また、糖尿病や慢性膵炎の家族歴がある場合も、注意が必要なリスク因子として挙げられています。
出典:日本膵臓学会「膵癌診療ガイドライン2022」より
関連記事:遺伝しやすいがんとは?遺伝する確率やがん体質について解説
喫煙は、膵臓がんのリスクをおよそ2倍に高めると報告されており、最も影響の大きい生活習慣のひとつです。長期にわたる過度な飲酒は、膵臓に繰り返し炎症を起こし、慢性膵炎を経て膵臓がんへと進むリスクがあります。また、肥満もインスリンの働きを悪化させ、膵臓に継続的な負担をかける要因になります。
関連記事:膵臓がんのリスク因子とは?歯周病だとなりやすいって本当?予防対策について解説
以下の項目に複数当てはまる方は、一度専門の医療機関への受診や検査を検討することをおすすめします。
| とくに理由がないのに体重が急激に減った | |
| 50歳以上ではじめて糖尿病を発症した | |
| 背中やみぞおちのあたりが重苦しい、鈍痛がある | |
| 過度な飲酒習慣がある | |
| たばこを吸っている | |
| 肥満気味である | |
| 急に血糖値が上がった | |
| 尿の色が濃くなった | |
| 家族に膵臓がん・糖尿病の人がいる |
関連記事:膵がん(膵臓がん)の症状って?初期・末期による違いや背中の痛みについて解説

「気になる症状があるけれど、どこに行けばいいかわからない」という方も多いと思います。ここでは受診先と検査の流れをわかりやすく解説します。
背中の痛みというと、整形外科を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、血糖値の異常も同時にみられる場合は、骨や筋肉ではなく内臓が原因の可能性もあります。このような場合には「消化器内科」への受診がおすすめです。膵臓を含めた消化器全体を専門とする診療科なので、必要な検査をスムーズに進めてもらえます。
腹部超音波(エコー)検査は、腹部に超音波の機器を当てて内臓の様子を確認する検査です。痛みや放射線被ばくがなく体への負担も少ないため、最初に行われる検査として広く用いられています。ただし、膵臓は胃の裏側に位置しているため、腸のガスや体型によっては見えにくい部分が生じることもあります。
造影CT検査は、血管から造影剤を注射したうえでCT撮影を行う検査です。がんの有無だけでなく、周囲の血管やリンパ節への広がり具合もくわしく調べることができます。膵臓がんの診断において、中心的な役割を果たす検査のひとつです。
MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)は、MRIを使い、膵液が流れる膵管や胆汁が流れる胆管の状態を立体的に描き出す検査です。造影剤の注射が不要で、膵管の微妙な変化や小さな病変を見つけるのに優れています。造影CTと組み合わせて使われることが多い検査です。
胃カメラの先端に超音波装置がついた機器を口から挿入し、胃の内側から膵臓をごく近い距離で観察する検査です。腸のガスの影響を受けにくく、CTやMRIでは抽出が難しい2cm以下の小さながんの発見にも優れています。画像検査で異常がはっきりしない場合や、膵臓がんの疑いが強い場合の精密検査として用いられ、必要に応じて組織を採取してくわしく調べることも可能です。
口から十二指腸まで内視鏡(カメラ)を入れ、膵管に直接細いチューブを通して造影剤を注入する検査です。超音波やCTなどの画像検査で膵管の狭窄といった異常が疑われた際に精密検査として行われます。
この検査の最大の強みは、膵液や組織を直接採取してがん細胞の有無を調べる病理診断(膵液細胞診など)ができる点です。そのため、CTでは見えない1cm以下の小さな早期膵癌や、腫瘍として認識できない上皮内癌(ステージ0)の最終的な確定診断をつけるために非常に有効です。
一方で、検査後に膵炎を発症するリスクもあるため、患者の病態に応じて慎重に実施されます。
膵臓がんの確定診断や治療方針の決定には、細胞や組織を直接採取して調べる細胞診や組織診(病理診断)が不可欠です。
主な検査法には、第一選択とされる「超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)」と、「ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)下の膵液細胞診」などがあります。EUS-FNAは針で直接組織を採取するため診断能が高く、比較的安全に行われます。
一方、ERCPを用いた細胞診は、膵管の狭窄部をこすり取ったり、チューブを留置して膵液を複数回採取したりして調べます。全体的な診断能はEUS-FNAに劣りますが、画像で腫瘍が見えないような早期膵がんの診断に非常に有効です。
急な血糖値の上昇や、原因がはっきりしない背中の鈍い痛みは、日常の忙しさのなかでつい後回しにしてしまいがちな変化です。しかし、こうした小さなサインが膵臓からのSOSである可能性があります。症状がはっきりしない段階からリスクに目を向けておくことが、膵臓がんの早期発見において非常に重要です。
サリバチェッカーは、がんのリスクを評価する検査であり、糖尿病や膵機能そのものを測定するものではありません。リスクを知る選択肢のひとつとして、唾液を用いたがんリスク検査「サリバチェッカー」があります。サリバチェッカーは、慶應義塾大学先端生命科学研究所の研究成果をもとに開発された検査で、唾液中の代謝物を解析することにより、膵臓がんを含む肺がん、胃がん、乳がん、口腔がんの6種のがんリスクを評価します。自宅で唾液を採取するだけで実施できるため、身体的な負担が少ないのが特徴です。この検査は診断を目的とするものではありませんが、リスクの目安を知ることで、必要なときに迷わず行動できる判断材料になります。
家族に膵臓がんの既往がある方や、糖尿病の急な悪化を経験している方、生活習慣にリスク要因がある方にとって、定期的なリスクチェックは将来への備えになります。少しでも気になる変化があれば、早めに意識を向けることが膵臓の健康を守る一歩につながります。